- 読み仮名
- まくろか
- 英語表記
- Membrane Filtration
概要
膜ろ過とは、膜の両側に圧力差を与え、水を膜に透過させることで、水中の懸濁物質や微生物などを分離する浄水処理方法である。水道では主に精密ろ過膜(MF膜)と限外ろ過膜(UF膜)が用いられ、濁質や細菌、クリプトスポリジウム等の除去に利用される。
砂ろ過がろ材層内で粒子を捕捉するのに対し、膜ろ過は膜の分離特性を利用して対象物質の透過を抑える。ただし、すべての溶解性物質やウイルスを一律に除去できるわけではなく、膜の種類や性能、健全性によって除去できる対象が異なる。
膜ろ過の仕組み
膜ろ過では、原水を膜の一次側に供給し、膜を通過した水を二次側から膜ろ過水として取り出す。MF膜・UF膜では、主に膜の細孔より大きな粒子や微生物の透過を阻止する。
膜に捕捉された物質は、膜表面などに蓄積するため、定期的な洗浄によって除去する必要がある。

全量ろ過とクロスフロー方式
膜ろ過には、水の流し方によって、全量ろ過方式とクロスフロー方式がある。
全量ろ過方式は、通常のろ過運転中、供給水を原則として全量膜に透過させる方式である。膜に捕捉された物質は、定期的な洗浄によって排出する。デッドエンドろ過とも呼ばれる。
クロスフロー方式は、原水を膜面に沿って流しながら、その一部を膜に透過させる方式である。膜面に沿った流れによって捕捉物の蓄積を抑え、透過しなかった水は濃縮水として排出または循環させる。循環方式では、濃縮水を常時外部へ排出するとは限らない。
全量ろ過方式は構成が比較的簡単で、浄水用MF膜・UF膜で広く利用されている。一方、クロスフロー方式は膜面への物質の蓄積を抑えやすいが、膜面に沿った流れを維持するための動力が必要となる。
なお、全量ろ過・クロスフローは水の流し方の分類であり、後述する定流量・定圧運転とは異なる。
膜の種類と特徴
水処理に用いられる主な圧力駆動型の膜は、精密ろ過膜(MF)、限外ろ過膜(UF)、ナノろ過膜(NF)、逆浸透膜(RO)の4種類に分類される。
一般にMFからROに向かうほど、より微細な物質まで分離対象となる。ただし、MF・UFが主に粒子の大きさによって分離するのに対し、NF・ROでは電荷や溶解・拡散なども分離に関係する。
| 膜の種類 | 主な分離対象・特徴 |
|---|---|
| 精密ろ過膜(MF) | 懸濁粒子、原虫、細菌などを主に分離する。比較的低い圧力で運転できるが、溶解性塩類などは基本的に透過する。 |
| 限外ろ過膜(UF) | MFより微細なコロイドや高分子成分まで分離できる。膜の性能によってはウイルスも除去対象となる。 |
| ナノろ過膜(NF) | 硬度成分や一部の溶解性有機物などの低減に利用される。分離性能には分子の大きさや電荷などが関係する。 |
| 逆浸透膜(RO) | 溶解性塩類を含む広い範囲の成分を低減でき、海水淡水化や脱塩処理などに利用される。浸透圧に打ち勝つ圧力が必要となる。 |

MF膜では主に公称孔径、UF膜では公称孔径や分画分子量などが性能の指標として用いられる。ただし、これらの値だけで微生物の除去性能が保証されるわけではない。実際の性能は膜の構造、試験条件、運転条件、膜の健全性などによって異なる。
膜モジュールの種類
膜を束ね、容器などに組み込んだものを膜モジュールという。
代表的な形状には、細い管状の膜を束ねた中空糸型、シート状の平膜型、膜シートを巻き込んだスパイラル型がある。
中空糸型には、膜の内側から外側へ水を透過させる内圧式と、外側から内側へ透過させる外圧式がある。
なお、「膜の種類」「モジュールの形状」「内圧式・外圧式」「全量ろ過・クロスフロー」は、それぞれ異なる分類である。
膜の材質にも高分子膜やセラミック膜などがあり、耐薬品性や洗浄方法が異なる。
膜ろ過施設の基本構成
MF・UF膜ろ過施設は、膜ろ過設備、膜ろ過水設備、洗浄設備、排水処理設備、監視制御設備などで構成され、原水水質や膜の仕様に応じて前処理設備を設ける。
原水中の大きな夾雑物を除去するためのスクリーン等を設けるほか、必要に応じて凝集・沈殿などの前処理を組み合わせる。
膜ろ過に必要な圧力差は、供給ポンプによる加圧、透過水側からの吸引、水位差などによって確保する。

図3は、逆洗ポンプを使用する加圧式MF・UF膜ろ過設備の構成例である。通常ろ過では原水が一次側から二次側へ透過し、膜ろ過水として取り出される。
逆洗時には、膜ろ過水槽などに貯留した水を逆洗ポンプで膜の二次側へ送り、通常ろ過とは逆方向に透過させる。これにより膜に付着した物質を剥離させ、一次側から洗浄排水として排出する。
逆洗時には通常ろ過から運転状態を切り替える。実際の設備には切替弁や洗浄用の配管、計装機器などが設けられるが、その構成は膜製品や採用方式によって異なる。
膜ろ過水は、必要な後段処理を経て浄水池などへ送られる。上水道では所定の消毒を行い、水道水として必要な水質を確保する。
また、洗浄排水には原水から除去した濁質などが含まれるため、排水処理や原水への返送方法についても水質リスクを考慮する必要がある。
膜ろ過の運転管理
膜ろ過の主な運転方法には、ろ過流量をほぼ一定に保つ定流量運転と、膜にかかる圧力差をほぼ一定に保つ定圧運転がある。
定流量運転では、膜の閉塞が進むと、同じ水量を透過させるために必要な膜差圧が上昇する。一方、定圧運転では、閉塞に伴って膜ろ過流量が低下する傾向がある。
浄水用のMF膜・UF膜では、全量ろ過と定流量運転を組み合わせる方式が広く利用されている。
膜ろ過流束(Flux)
膜ろ過流束とは、単位膜面積当たり、単位時間に膜を透過する水量である。
膜ろ過流束 J = Q / A
- J:膜ろ過流束[m³/(m²・h)]
- Q:膜ろ過水量[m³/h]
- A:有効膜面積[m²]
膜分野では、L/(m²・h)(LMH)などの単位も用いられる。
膜ろ過流束は、膜の処理能力を示す基本的な指標であり、膜の種類、原水水質、水温、洗浄条件などを考慮して設定する。
膜差圧(TMP)
膜差圧とは、膜の一次側と二次側の圧力差であり、膜を通して水を透過させるための駆動力を表す。
全量ろ過では、基本的に次の関係となる。
膜差圧 = 一次側圧力 − 二次側圧力
クロスフロー方式では、一次側の入口・出口圧力の平均値を用いる場合がある。実際の管理では、設備の計装構成や膜メーカーが定める算定方法に従う。
膜の閉塞が進むと、定流量運転では膜差圧が上昇するため、その変化から膜の状態を把握できる。
ただし、水温が低下すると水の粘度が増加し、膜差圧も上昇する。そのため、過去の運転データと比較する際は、水温の違いや温度補正後の透水性能を考慮する必要がある。

日常の運転管理では、膜差圧、膜ろ過流量、膜ろ過水濁度に加え、水温、運転時間、洗浄履歴、原水水質などを継続的に確認する。
なお、膜差圧の上昇は主に閉塞の進行を示すものであり、膜の破損を直接示すものではない。
膜の閉塞と洗浄
膜ろ過を続けると、膜表面や細孔内に濁質、コロイド、有機物などが付着・蓄積し、透水性能が低下することがある。このような膜の汚れによる性能低下を膜ファウリングという。
膜の汚れには、有機物によるもの、鉄・マンガン等に由来する無機物の付着・析出、微生物によるものなどがある。
物理洗浄によって回復する閉塞を可逆的な閉塞、物理洗浄だけでは十分に回復しない閉塞を不可逆的な閉塞という。ただし、不可逆的な閉塞であっても、薬品洗浄によって回復する場合がある。
物理洗浄
物理洗浄には、主に次の方法がある。
- 逆洗:膜ろ過水などを通常ろ過とは逆方向に透過させ、捕捉物を除去する。
- 空気洗浄:空気による膜の揺動や気泡の作用などを利用して、付着物を剥離させる。
- フラッシング:水流によって膜表面などに蓄積した物質を排出する。
これらは膜モジュールの構造に応じて、単独または組み合わせて実施する。
なお、急速ろ過池にも逆洗があるが、膜モジュールと砂ろ過層では構造や洗浄条件が異なる。
薬品洗浄
物理洗浄だけでは十分に透水性能が回復しない場合には、薬品による洗浄を行う。
薬品を用いた定期的な維持洗浄と、低下した透水性能の回復を目的とする回復洗浄は、目的や実施条件を区別して管理する。
使用する薬品の種類、濃度、接触時間、温度などは、膜材質や付着物の性状によって異なる。
薬品洗浄では、膜の損傷や薬品の混触を防止するとともに、洗浄排液を適切に処理する必要がある。
膜の健全性と水質管理
膜ろ過では、透水性能の維持だけでなく、膜が正常に機能していることを確認する必要がある。
膜に破れが生じたり、シール部や接続部に不具合が発生したりすると、ろ過されていない原水が膜ろ過水側へ混入するおそれがある。
このため、膜ろ過施設では膜の健全性確認と膜ろ過水の水質監視を組み合わせて管理する。
膜の健全性確認
膜の健全性を直接確認する方法には、圧力減衰試験などがある。試験方法は膜の構造や設備仕様によって異なる。
一方、膜ろ過水の濁度や粒子数を監視する方法は、処理水の状態から異常を推定する間接的な監視である。
濁度が低くても、微細な膜損傷や病原微生物の漏出を必ず検知できるわけではないため、直接的な健全性試験と間接監視を組み合わせることが重要である。

「水道施設の技術的基準を定める省令」では、膜ろ過設備について、膜の両面における水圧の差、膜ろ過水量及び膜ろ過水の濁度を監視し、異常が生じた場合に関係する浄水施設の運転を速やかに停止できる設備を求めている。
したがって、監視値を確認するだけでなく、異常時の警報、停止、隔離などの機能を適切に維持する必要がある。
膜の損傷などが疑われる場合は、該当設備を停止または適切に隔離し、監視計器、膜モジュール、シール部、配管接続部などを調査する。補修・交換後は、所定の健全性試験と水質確認を行ってから運転を再開する。
クリプトスポリジウム等との関係
クリプトスポリジウムやジアルジアは、通常の水道水の塩素消毒では十分に不活化できない耐塩素性の病原生物である。
適切な分離性能を有する膜ろ過設備は、これらを水中から除去するための有効な対策となる。ただし、膜の損傷やシール不良などによる漏出を防止するため、膜の健全性を維持する必要がある。
「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」(2019年5月改正)では、汚染のおそれに応じた施設整備方法の一つとして膜ろ過が位置付けられている。
レベル4及びレベル3で、ろ過設備のみによる対策を採用する場合には、ろ過池等の出口濁度を0.1度以下に維持できる設備が求められる。なお、レベル4でろ過設備と紫外線処理設備を組み合わせる場合には、別の要件が定められている。
膜ろ過法では、膜の異常を検知または検査した場合に、該当設備を直ちに停止するなど、適切な運転管理が重要となる。
原水のリスク判定や施設整備方法の詳細については、適用される指針と最新の通知を確認する必要がある。
急速ろ過との比較
膜ろ過と急速ろ過は、いずれも濁質などを除去する浄水処理方法であるが、分離機構や維持管理の重点が異なる。
| 比較項目 | 膜ろ過 | 急速ろ過 |
|---|---|---|
| 分離原理 | 膜の分離特性による透過・阻止 | ろ材層内での捕捉・付着など |
| 主な除去対象 | 膜の種類・性能に応じた粒子や微生物など | 凝集処理後の懸濁粒子やフロックなど |
| 前処理 | 原水水質に応じてスクリーン・凝集等を選択 | 一般に凝集処理と組み合わせ、必要に応じて沈殿処理を設ける |
| 運転管理 | 膜差圧、流束、洗浄履歴など | ろ過速度、損失水頭、ろ過継続時間など |
| 洗浄 | 逆洗、空気洗浄、薬品洗浄など | 逆流洗浄、表面洗浄など |
| 維持管理 | 膜の閉塞・損傷、膜交換、洗浄設備の管理 | ろ層状態、洗浄条件、ろ材・集水装置の管理 |
膜ろ過は膜による分離性能を活用できる一方、膜の閉塞対策、健全性確認、膜更新などが必要となる。急速ろ過では、凝集条件やろ層の維持管理が重要となる。
どちらかが一律に優れるわけではなく、原水水質、処理目標、施設規模、建設費・運転費、維持管理体制などを総合的に比較して選定する。
設計・維持管理上の留意点
膜ろ過施設の設計では、原水水質の変動や最低水温時の透水性能を考慮し、安定した膜ろ過水量を確保できるようにする必要がある。
また、定期的な逆洗や薬品洗浄によって膜ろ過を停止する時間が生じるため、必要な浄水量を確保できる系列構成や運転方法を検討する。
維持管理では、膜差圧と流束の変化、洗浄による回復状況、膜の健全性、計測器の状態などを継続的に確認することが重要である。
特に洗浄設備のポンプや弁類は動作回数が多いため、摩耗や劣化を考慮した定期点検・整備が必要となる。
さらに、洗浄排水や薬品洗浄排液の処理方法、膜交換時の作業性、予備設備の確保についても検討する。
工業用水道では、需要家の用途によって要求水質が異なる。濁質除去を目的とする場合と、さらに脱塩などの処理が必要な場合を区別し、需要家側の水処理設備との役割分担を踏まえて膜ろ過の適用を判断する。
まとめ
膜ろ過は、膜の分離特性を利用して濁質や微生物などを除去する浄水処理方法である。
安定した処理性能を維持するためには、膜差圧や流束による閉塞管理、定期的な洗浄、膜の健全性確認、異常時の停止・隔離を適切に組み合わせる必要がある。
膜の種類や運転方式は、原水水質と処理目標に応じて選定し、施設の設計から維持管理まで一体として検討することが重要である。
関連用語
参考資料
- 『水道施設の技術的基準を定める省令』(平成12年厚生省令第15号、現行条文)
https://laws.e-gov.go.jp/law/412M50000100015/ - 厚生労働省『水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針』(2019年5月改正)
https://www.env.go.jp/content/900547601.pdf - 厚生労働省『水道施設の点検を含む維持・修繕の実施に関するガイドライン』(2023年3月改訂、国土交通省掲載)
https://www.mlit.go.jp/common/830005760.pdf - 旭化成株式会社『膜分離の原理と特長』
https://www.asahi-kasei.co.jp/membrane/microza/membrane-separation-basics/membrane-separation-principles-and-features.html - 旭化成株式会社『膜分離の分離領域「MF・UF・NF・RO」を理解する』
https://www.asahi-kasei.co.jp/membrane/microza/membrane-separation-basics/membrane-separation-range-mf-uf-nf-ro.html

