クリプトスポリジウム

読み仮名
くりぷとすぽりじうむ
英語表記
cryptosporidium
目次

概要

クリプトスポリジウムとは、人や動物の消化管に寄生する原虫の一種であり、汚染された水などを介して感染する病原生物である。通常の水道水の塩素消毒に対して強い抵抗性を持つため、浄水処理による除去や不活化が重要となる。

国内では1996年に埼玉県越生町で大規模な集団感染が発生した。この事故を契機に暫定対策指針が策定され、現在では水道原水の汚染リスクに応じて、ろ過設備や紫外線処理設備による対策が行われている。

クリプトスポリジウムとは

クリプトスポリジウムは、人や牛などの哺乳動物の消化管に寄生する原虫である。感染した人や動物の糞便とともに排出され、河川などの水源を汚染することがある。

環境中では、オーシストと呼ばれる殻に覆われた状態で存在する。オーシストは直径約4~6μmのほぼ球形であり、通常の塩素消毒に対して強い抵抗性を持つ。

水道原水に混入したオーシストが浄水処理で十分に除去又は不活化されなかった場合、水道水を介して感染が広がるおそれがある。

人や動物から河川へ排出されたクリプトスポリジウムが、浄水処理の不足によって水道水を介して感染する経路

人体への影響

クリプトスポリジウムのオーシストを経口摂取すると、主に小腸に感染し、クリプトスポリジウム症を引き起こすことがある。

主な症状は水様性の下痢や腹痛である。健康な人では自然に回復することが多いが、免疫機能が低下している人では症状が長期化し、重症化することがある。

項目主な特徴
主な症状水様性下痢、腹痛、吐き気、発熱など
潜伏期間通常2~10日程度(平均約7日)
症状の経過健康な人では通常2~3週間程度で回復することが多い
主な健康被害脱水、体重減少など
注意が必要な人乳幼児や免疫機能が低下している人など
重症化した場合長期にわたる下痢、栄養吸収障害など

クリプトスポリジウムは、少数のオーシストでも感染する可能性がある。このため、水道では浄水処理によって感染を未然に防ぐことが重要となる。

集団感染事故と対策指針の策定

1996年6月、埼玉県越生町で、水道水を介したクリプトスポリジウムによる大規模な集団感染が発生した。

町が実施した調査では、回答者12,345人のうち8,812人が下痢などの症状を訴え、24人が入院した。また、浄水場の原水と給水栓水からクリプトスポリジウムのオーシストが検出された。

当時の浄水場では急速ろ過が行われていたが、凝集剤であるポリ塩化アルミニウム(PAC)は常時注入されていなかった。また、浄水場上流の排水処理施設を介して、オーシストが河川と水道の間を循環し、感染が拡大した可能性が指摘されている。ただし、当初の原水汚染の原因は特定されていない。

この事故を受け、厚生省(当時)は1996年10月に「水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針」を策定した。その後、科学的知見の蓄積に応じて指針が改正され、施設整備や運転管理に関する対策が整備されてきた。

年月・出来事主な内容
1996年6月 越生町の集団感染事故水道水を介した大規模な集団感染が発生し、8,812人が下痢などの症状を訴えた。
1996年10月 暫定対策指針の策定原水の汚染防止、適切な浄水処理、ろ過管理及び感染発生時の応急措置などを提示した。
1998年6月 暫定対策指針の改正検査方法や汚染リスクに関する知見の蓄積を踏まえ、指針を見直した。
2000年2月 施設基準省令の制定「水道施設の技術的基準を定める省令」を公布。耐塩素性病原生物への施設対策を規定し、同年4月に施行した。
2001年11月 暫定対策指針の改正原水の汚染のおそれの判断基準や指標菌の検査などについて内容を見直した。
2007年3月 対策指針の策定暫定指針に代わる「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」を策定。レベル1~4のリスク分類を導入し、レベル3の施設に紫外線処理を位置づけた。同年4月から適用した。
2019年5月 対策指針の改正レベル4の施設についても、ろ過設備と紫外線処理設備を組み合わせる方式を対策として位置づけた。

対策指針は、事故を受けた応急的な対策から、原水の汚染リスクに応じて施設整備と運転管理を行う仕組みへと発展してきた。

なお、対策指針の名称にある「クリプトスポリジウム等」には、同じく耐塩素性の病原生物であるジアルジアが含まれる。

水処理によるクリプトスポリジウム対策

クリプトスポリジウムのオーシストは、通常の水道水の塩素消毒条件では十分な不活化を期待できない。

このため、水道ではオーシストを物理的に取り除く「除去」と、感染能力を失わせる「不活化」を基本として対策を行う。代表的な方法は、ろ過による除去と紫外線処理による不活化である。

クリプトスポリジウムに対する塩素消毒の限界、ろ過による除去、紫外線処理による不活化の比較
処理方法原理と注意点
塩素消毒通常の消毒条件では十分な不活化を期待できない。ただし、一般的な病原微生物への対策として必要である。
凝集沈殿・急速ろ過凝集によって微細な粒子をフロックに取り込み、沈殿・ろ過で除去する。適切な凝集操作と濁度管理が重要である。
緩速ろ過ろ過砂や生物ろ過膜などの働きによって除去する。生物ろ過膜の状態やろ過速度の管理が重要である。
膜ろ過膜による物理的な分離によって除去する。膜の健全性を確保する必要がある。
紫外線処理紫外線によって感染能力を失わせる。照射性能と処理水の水質管理が重要である。

凝集沈殿・急速ろ過

急速ろ過では、凝集剤によってオーシストなどの微細な粒子をフロックに取り込み、沈殿及びろ過によって除去する。

凝集処理が不十分な場合、オーシストがろ過池を通過するおそれがある。このため、対策指針では原水の濁度が低い場合でも、凝集剤を用いた適切な処理を行うこととしている。

緩速ろ過

緩速ろ過では、ろ過砂やその表面に形成される生物ろ過膜などの働きによって、オーシストを除去する。

ろ過砂のかき取り後は、生物ろ過膜が再形成され、ろ過機能が十分に回復するまで、ろ過水を排水するなど慎重な運転が必要となる。

膜ろ過

膜ろ過では、膜による物理的な分離によってオーシストを除去する。

ただし、膜の破損や接続部の異常が生じた場合、十分な除去性能を確保できなくなるおそれがある。このため、膜の損傷等による異常を適切に検知又は検査し、異常が認められた場合には、直ちに該当する膜ろ過設備の運転を停止する必要がある。

紫外線処理

紫外線処理は、オーシストの遺伝物質などに作用し、感染能力を失わせる方法である。ろ過とは異なり、オーシスト自体を水中から除去するものではない。

対策指針では、クリプトスポリジウム等を99.9%以上不活化できる紫外線処理設備が位置づけられている。99.9%の不活化は、感染性を持つオーシストを1,000分の1に減少させることに相当し、「3log不活化」と呼ばれる。

十分な不活化性能を確保するためには、処理水量、濁度、色度、紫外線透過率及び紫外線強度などを適切に管理する必要がある。

水道原水の汚染リスク

クリプトスポリジウムは、人や動物の糞便を介して水環境に排出されるため、水道原水の汚染リスクは水源の種類や周辺環境によって異なる。

対策指針では、原水の種類と指標菌の検出状況に基づき、汚染のおそれをレベル1~4に分類している。

原水の指標菌の検出歴と水源の種類からクリプトスポリジウムの汚染リスクをレベル1から4に分類するフロー図
区分汚染のおそれと基本的な対策
レベル4汚染のおそれが高い。地表水を原水とし、指標菌の検出歴がある。ろ過又はろ過と紫外線処理の組合せによる対策が必要となる。
レベル3汚染のおそれがある。地表水以外を原水とし、指標菌の検出歴がある。ろ過又は所定の要件を満たす紫外線処理による対策が必要となる。
レベル2当面、汚染の可能性が低い。地表水等が混入していない被圧地下水以外の水を原水とし、指標菌の検出歴がない。指標菌検査による監視を行う。
レベル1汚染の可能性が低い。地表水等が混入していない被圧地下水のみを原水とし、指標菌の検出歴がない。井戸の隔絶性の確認などを行う。

ここでいう指標菌は、大腸菌及び嫌気性芽胞菌であり、糞便由来の汚染リスクを判断するために用いられる。指標菌の検出はクリプトスポリジウムそのものの検出を意味するわけではない。

また、指標菌が検出されていないことだけで、汚染リスクがないと判断できるわけではない。被圧地下水の隔絶性や井戸の構造なども確認する必要がある。

レベル2では原水の指標菌検査を3か月に1回以上実施する。レベル1では年1回の原水水質検査や3年に1回の井戸内部の点検などによって、地表からの汚染のおそれを確認する。

ろ過水の濁度管理

クリプトスポリジウム対策では、ろ過水の濁度管理が特に重要である。

濁度は、水中の微細な粒子によって生じる濁りの程度を表す。ろ過水の濁度を監視することで、ろ過による粒子除去の状態を間接的に把握できる。

対策指針では、ろ過単独による除去を対策とする場合、ろ過池等の出口濁度を常に0.1度以下に維持することとしている。

この0.1度は、水道水の水質基準ではなく、クリプトスポリジウム等対策において、ろ過処理の適切な運転状態を確保するための管理値である。

一方、ろ過後に紫外線処理を組み合わせる方式では、所定の設備要件を満たしたうえで、ろ過池等の出口濁度を可能な限り低減させることとしている。

ただし、濁度が0.1度以下であることは、オーシストが存在しないことを直接証明するものではない。濁度は、適切な浄水処理が維持されているかを確認するための管理指標である。

逆洗後の運転管理

急速ろ過池では、逆洗直後にろ過機能が十分に回復していないことがある。このため、ろ過再開時には、ろ過速度を段階的に増加させることや、必要な捨て水を行うことなどにより、ろ過水の濁度上昇を防ぐ必要がある。

また、逆洗排水を原水系統へ返送する場合には、捕捉されたオーシストが浄水処理系統内を循環するおそれがある。排水処理や返送方法を適切に管理し、濁質の再流入を抑えることが重要である。

急速ろ過の出口濁度監視と逆洗後の捨て水、濁度確認、通常運転への復帰を示す模式図

検査と異常時の対応

水道事業者は、原水の汚染リスクに応じて、指標菌及びクリプトスポリジウム等の検査を実施する。

クリプトスポリジウムの検査には、試料中のオーシストを濃縮し、蛍光抗体染色によって染色したうえで顕微鏡観察する方法や、遺伝子を検出する方法などがある。ただし、オーシストや遺伝子の検出結果だけでは、その感染性まで直接判断できるとは限らない。

水道水が汚染されたおそれがある場合には、関係機関と連携し、送水停止、取水停止、水源の切替え、浄水処理の強化及び利用者への広報・飲用指導など、状況に応じた措置を講じる必要がある。

給水の再開に当たっては、汚染された配水系統の水を排出し、汚染されていない水で配水管や配水池等を十分に洗浄する。そのうえで、対策指針に基づき、給水栓水、配水池水及び浄水池水についてクリプトスポリジウム等の水質検査を実施し、検水20L当たり検出されないことなど、飲用水としての安全性を確認してから給水を再開する。

クリプトスポリジウム対策では、事故発生後の対応だけでなく、原水の汚染リスクを把握し、平常時から適切な浄水処理と監視を継続することが重要である。

関連用語

参考資料

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この記事を書いた人

ふるさん
みずみちノートの執筆者・案内役

水道施設に古くから関わっている「古株」のフクロウ。上水道・工業用水道の技術を、基礎から現場での実務までわかりやすく案内します。

技術監修: 技術士(上下水道部門)

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