- 読み仮名
- ちんでんち
- 英語表記
- Sedimentation Basin
概要
沈殿池とは、水中に含まれる懸濁物質やフロックを、重力による沈降作用によって水から分離するための施設である。浄水処理では、主に凝集処理によって形成されたフロックを沈降させ、後段のろ過処理に送る水の濁度を低減する役割を持つ。
一般的な急速ろ過方式の浄水施設では、混和池、フロック形成池、沈殿池、急速ろ過池の順に処理が行われる。沈殿池で十分にフロックを除去することは、ろ過池への濁質負荷を軽減し、安定した浄水処理を行ううえで重要である。
沈殿性能は、フロックの沈降性だけでなく、池内の水流状態、表面負荷率、流入・流出設備の構造、排泥管理などによって左右される。
1.沈殿池の基本構造
沈殿池は、流入部、整流設備、沈殿部、流出部、排泥部などで構成される。横流式沈殿池では、水を水平方向に緩やかに流しながらフロックを沈降させ、池底に堆積した汚泥を排出する。

1.1 主な構成設備
| 設備 | 役割 |
|---|---|
| 流入部 | フロック形成池などからの処理水を沈殿池へ導入する。 |
| 整流壁 | 流入水を池の断面にできるだけ均等に分配し、偏流や短絡流を抑制する。 |
| 沈殿部 | フロックを沈降させ、水と固形物を分離する。 |
| 流出部 | 沈殿処理後の水を越流堰やトラフなどで取り出し、後段の施設へ送る。 |
| 池底・堆泥部 | 沈降した汚泥を一時的に堆積させる。 |
| 排泥部 | 堆積した汚泥をかき寄せ、排泥管などを通じて池外へ排出する。 |
1.2 沈降と水流の関係
沈殿池では、水の流れによってフロックが下流へ運ばれる一方、重力によって下方へ沈降する。フロックが流出部に達する前に池底へ到達することが、沈殿分離の基本となる。
実際の凝集沈殿では、フロック同士の接触や凝集によって粒径や沈降速度が変化する。このため、単一粒子の沈降を仮定した理論だけで沈殿性能を評価することはできない。
また、池内に偏流や短絡流が生じると、一部の水が十分な沈降時間を確保できないまま流出する。適切な整流設備を設け、水流を安定させることが重要である。
2.沈殿池の主な形式
沈殿池は、水の流れ方や沈降装置の有無などによって分類される。代表的な形式には、横流式沈殿池、上向流式沈殿池、傾斜板(管)式沈殿池がある。

2.1 横流式沈殿池
横流式沈殿池は、水を流入側から流出側へほぼ水平方向に流し、その間にフロックを沈降させる方式である。
構造が比較的単純で、沈降状況や汚泥の堆積状態を把握しやすい。一方、流入・流出部の構造や池の形状によって偏流や短絡流が生じるため、整流設備の配置が重要となる。
2.2 上向流式沈殿池
上向流式沈殿池は、水を池の下部から上部へ流し、フロックを重力によって下方へ沈降させる方式である。
水の上昇速度とフロックの沈降速度の関係が沈殿分離に影響する。流入水の分配が不均一になると局所的に流速が増大し、フロックが流出しやすくなるため、均等な通水が重要である。
2.3 傾斜板(管)式沈殿池
傾斜板(管)式沈殿池は、池内に傾斜板や傾斜管などの沈降装置を設置し、フロックが沈降面へ到達するまでの距離を短くする方式である。
沈降面に到達したフロックは板面などに堆積し、汚泥として下方へ移動する。沈降装置を設けることで、限られた設置面積でも沈殿性能の向上や処理能力の増加を図ることができる。
傾斜板装置には、水平流式や上向流式などがあり、水流方向と沈降装置の配置によって構造が異なる。図では、横流式沈殿池に水平流式の傾斜板装置を設置した例を示している。
2.4 主な形式の比較
| 形式 | 特徴 |
|---|---|
| 横流式 | 水を水平方向に流しながら沈降分離する。整流設備や池の形状が沈殿性能に影響する。 |
| 上向流式 | 水を下部から上部へ流す。上昇流速とフロックの沈降性の関係が重要となる。 |
| 傾斜板(管)式 | 沈降装置によって沈降距離を短縮する。水流方式には水平流式や上向流式などがある。 |
なお、高速凝集沈殿池は、凝集と沈殿を組み合わせた処理機構を持つ方式であり、一般的な横流式沈殿池とは異なる特徴を持つ。詳細な構造と運転管理については、独立した項目で扱う。
3.沈殿池の設計上の基本事項
沈殿池の設計では、計画処理水量、表面負荷率、池内流速、有効水深、堆泥深さ、池数などを総合的に検討する。
設計条件は、原水水質、凝集処理の状況、フロックの沈降性、水温、池内の流況などによって影響を受けるため、施設の形式と運転条件に応じて設定する必要がある。
3.1 表面負荷率
表面負荷率とは、単位水面積当たりの処理水量を表す値であり、沈殿池の基本的な設計指標である。
表面負荷率 (v_0) は、処理水量を (Q)、沈殿池の有効水面積を (A) とすると、次式で表される。
[
v_0=\frac{Q}{A}
]
単層式の横流式沈殿池では、表面負荷率15~30mm/minを標準とする。多階層式では15~25mm/minが標準であり、形式によって適用する値が異なる。
表面負荷率は沈殿池の必要面積を検討するための指標であるが、実際の沈殿性能はフロックの沈降性や池内流況にも左右される。
3.2 池内平均流速
横流式沈殿池の池内平均流速は、0.4m/min以下を標準とする。
池内流速が過大になると、沈降途中のフロックが流出しやすくなるほか、池底に堆積した汚泥の巻き上がりが生じるおそれがある。
一方、平均流速が小さくても、流入・流出部の構造によって局所的な流速増大や短絡流が発生する場合がある。このため、平均流速だけでなく池内全体の流況を考慮することが重要である。
3.3 有効水深と堆泥深さ
横流式沈殿池の有効水深は、3~4m程度を標準とする。また、沈降した汚泥を堆積させるため、有効水深とは別に30cm以上の堆泥深さを見込む。
有効水深は、フロックの沈降過程や池内の水流安定性に関係する。実際の凝集沈殿では、水深が沈殿性能に影響するため、表面負荷率だけで水深を決定することは適切ではない。
堆泥深さは、原水の濁度、凝集剤の使用量、汚泥発生量、排泥頻度などを考慮して設定する。
3.4 池数と流量配分
横流式沈殿池は、原則として2池以上設置する。
複数池とすることで、清掃、点検、修理などの際に一部の池を停止しながら、残りの池で処理を継続しやすくなる。
各池への流量配分が不均等になると、池ごとの表面負荷率や流速が異なり、沈殿性能に差が生じる。このため、流入水路、分配設備、流入・流出弁などを適切に配置し、できるだけ均等に流量を配分する。
4.排泥設備と汚泥かき寄せ機
沈殿池では、沈降したフロックが汚泥として池底に堆積する。汚泥を適切に排出しないと、有効な沈殿空間の減少、汚泥の巻き上がり、沈殿水濁度の上昇などにつながるおそれがある。
池底に堆積した汚泥は、汚泥かき寄せ機などによって排泥ホッパへ集め、排泥管を通じて池外へ排出する。
4.1 リンクベルト式汚泥かき寄せ機
リンクベルト式は、チェーンに一定間隔で取り付けたフライト(かき寄せ板)を連続移動させ、池底の汚泥を排泥ホッパへ集める方式である。
池底側のフライトが汚泥を排泥ホッパの方向へ移送し、上側では反対方向へ戻る。チェーンは連続して循環するため、かき寄せ方向を切り替える必要がない。

排泥ホッパに集まった汚泥は、排泥弁を開いて排泥管から排出する。排泥は自然流下を原則とするが、施設の高低差や排泥先の条件によってはポンプを使用する場合もある。
4.2 主な汚泥かき寄せ方式
汚泥かき寄せ機には、リンクベルト式以外にも複数の方式がある。沈殿池の形状、汚泥発生量、設備の維持管理性などに応じて適切な方式を選定する。
| 方式 | 特徴 |
|---|---|
| リンクベルト式 | チェーンに取り付けたフライトを連続移動させ、汚泥を排泥ホッパへかき寄せる。 |
| 水中牽引式 | 水中のかき寄せ台車をロープなどで牽引する。復路ではかき寄せ板を持ち上げ、汚泥の逆方向への移動を抑える。 |
| 往復運動式 | スクレーパを往復運動させ、汚泥を一定方向へ段階的に移送する。 |
| 回転式 | 回転するレーキやかき寄せ板で汚泥を集める。主に円形池などに使用される。 |
| 走行式ミーダ形 | 池上を走行する装置にかき寄せ板を設け、汚泥をホッパへ集める。 |
各方式は、駆動装置や汚泥の移送方法、点検・清掃のしやすさが異なる。詳細な設備構造や特徴については、独立した「汚泥かき寄せ機」の項目で解説する。
5.運転管理と維持管理
沈殿池の安定した運転には、沈殿水の水質監視、排泥管理、整流設備の点検、汚泥かき寄せ機の維持管理が重要である。
5.1 沈殿水濁度の監視
沈殿水の濁度は、沈殿性能を把握するための基本的な管理項目である。
沈殿水濁度が上昇した場合は、原水水質の変化、凝集不良、池内流況の悪化、汚泥の巻き上がりなどを確認する必要がある。
濁度の変化は沈殿池だけに原因があるとは限らないため、凝集剤注入量、フロック形成状況、流入水量などと併せて評価する。
5.2 汚泥の堆積と排泥管理
汚泥の堆積量や性状は、原水の濁度や凝集剤注入量によって変化する。特に高濁度時には汚泥発生量が増加するため、排泥頻度や排泥時間の調整が必要となる。
排泥が不足すると、堆積汚泥の増加によって沈殿性能が低下するおそれがある。一方、必要以上に排泥すると、排泥水量が増加し、排水処理施設への負荷が大きくなる。
汚泥の堆積状況、排泥水の濃度、排泥量などを確認し、適切な排泥管理を行うことが重要である。
5.3 設備の点検
汚泥かき寄せ機では、駆動装置、チェーン、フライト、軸受などの摩耗、腐食、緩み、異常音、過負荷などを点検する。
また、排泥管や排泥弁の閉塞、動作不良にも注意する。排泥設備に異常が生じると、汚泥の堆積が進み、沈殿処理に支障を来す場合がある。
整流壁や流出設備についても、破損、閉塞、堆積物の付着などを確認する。池内の水流を均等に維持し、偏流や短絡流を防止することが重要である。
6.まとめ
沈殿池は、凝集処理によって形成されたフロックを重力で沈降分離し、後段のろ過処理への濁質負荷を軽減する重要な施設である。
沈殿性能は、表面負荷率や有効水深などの設計条件だけでなく、フロックの沈降性、池内の流況、整流設備、排泥設備によって左右される。
適切な設計と運転管理によって、沈殿水質を安定させるとともに、汚泥の堆積や巻き上がりを防止することが重要である。
関連用語
参考資料
- 日本水道協会『水道施設設計指針2024』第5編 浄水施設、5.4.4~5.4.10
- 日本水道協会『水道施設設計指針2024』第8編 機械・電気・計装設備、8.8.4 排泥設備

