ポンプの全揚程

読み仮名
ぽんぷのぜんようてい
英語表記
Total pump head
目次

概要

ポンプの全揚程とは、ポンプが水に与えるエネルギーを水柱の高さで表したものである。単位はm(メートル)であり、ポンプの能力を示す基本的な指標の一つである。

水道施設では、取水、導水、送水、配水などのポンプ設備を設計する際に、必要な流量とともに全揚程を求める。全揚程は、単に水を持ち上げる高さではなく、水槽間の水位差や管路の損失水頭などを考慮して決定する。

また、ポンプそのものの全揚程は、吸込側と吐出側の全水頭の差として表される。全水頭は圧力水頭、速度水頭、位置水頭から構成されるため、吐出側の圧力だけで全揚程を判断することはできない。

1.全揚程と実揚程の違い

全揚程(H)は、ポンプによって水に加えられる単位重量当たりのエネルギーを、水頭として表したものである。水頭とは、水のエネルギーを水柱の高さに換算した値であり、圧力や速度などの異なる形態のエネルギーを共通の単位で扱うことができる。

実揚程とは、送水における静的な高さの差をいう。吸込水槽と送水先水槽がともに大気に開放されている場合は、両水槽の水面標高の差が実揚程となる。

一方、管路内を水が流れると、管壁との摩擦や弁、曲管などによってエネルギーが失われる。この損失もポンプが補う必要があるため、一般に全揚程は実揚程より大きくなる。

2.開放水槽間における全揚程

吸込水槽と送水先水槽がともに大気に開放され、水面の流速を無視できる場合、ポンプの全揚程は次の式で求められる。

H = (z₂ − z₁) + hL

ここで、各記号は次のとおりである。

記号内容
Hポンプの全揚程(m)
z₁吸込水槽の水面標高(m)
z₂送水先水槽の水面標高(m)
hL吸込側・吐出側の管路に生じる損失水頭の合計(m)

例えば、吸込水槽と送水先水槽の水位差が30m、管路の損失水頭が10mの場合、必要な全揚程は次のようになる。

H = 30 + 10 = 40m

この例では、吐出口が水没しており、流入・流出に伴う損失も損失水頭に含めている。

吸込水槽と送水先水槽が大気開放の場合について、両水槽の水位差30mと管路の損失水頭10mを合計し、ポンプの全揚程40mを求める仕組みを示す図

実揚程は水槽間の水位差によって決まるため、ポンプの設置高さそのものとは異なる。一方、ポンプの設置高さは吸込圧力やキャビテーションの発生条件に影響するため、全揚程とは別に検討する必要がある。

3.吸込側と吐出側の全水頭差

ポンプの全揚程は、吸込側と吐出側の全水頭の差としても求められる。

全水頭は、圧力水頭、速度水頭、位置水頭の和である。それぞれの内容を次に示す。

項目内容
圧力水頭水の圧力を水柱の高さに換算したもので、p/ρgで表す
速度水頭水の流速に伴う運動エネルギーを表すもので、速度水頭補正係数を1とする場合はv²/2gで表す
位置水頭基準面からの高さを表すもので、zで表す

速度水頭補正係数を1とする場合、ポンプの吸込断面と吐出断面の全水頭差は、次の式で表される。

H = (pd − ps)/(ρg) + (vd² − vs²)/(2g) + (zd − zs)

ここで、各記号は次のとおりである。

記号内容
ps、pd吸込側・吐出側の圧力(Pa)
vs、vd吸込側・吐出側の平均流速(m/s)
zs、zd吸込側・吐出側の断面標高(m)
ρ水の密度(kg/m³)
g重力加速度(m/s²)

吸込側と吐出側の断面が同じ高さにあり、管径も同じであれば、両断面の位置水頭差と速度水頭差はゼロとなる。この場合、全揚程は圧力水頭の差だけで求められる。

例えば、吸込側のゲージ圧が98kPa、吐出側のゲージ圧が392kPa、水の密度が1,000kg/m³、重力加速度が9.8m/s²の場合、全揚程は次のようになる。

H = (392 − 98) × 1,000 / (1,000 × 9.8)

H = 30m

ポンプの吸込側と吐出側の圧力水頭・速度水頭・位置水頭を比較し、両断面の全水頭差から全揚程を求める式と計算例を示す図

この計算例は、前章の水槽間の計算例とは異なる条件を想定したものである。

実際のポンプ設備では、吸込側と吐出側で管径や断面の高さが異なる場合がある。その場合は、圧力水頭だけでなく、速度水頭と位置水頭の差も考慮して全揚程を求める必要がある。

また、圧力の測定位置がポンプの吸込・吐出断面と異なる場合は、測定位置とポンプ本体との間に生じる損失水頭を考慮する必要がある。ポンプ単体の全揚程を評価する際には、測定断面の位置と配管条件を確認することが重要である。

4.全揚程と管路の損失水頭

管路の損失水頭は、主に摩擦損失水頭と局部損失水頭に分けられる。

摩擦損失水頭は、管路内を流れる水と管壁との摩擦によって生じる。管路の延長、内径、粗度、流量などによって変化し、一般に管路が長く、内径が小さくなるほど大きくなりやすい。

局部損失水頭は、曲管、分岐、弁、管径の変化、流入・流出などによって発生する。これらの部分では流れの方向や速度分布が変化し、エネルギー損失が生じる。

損失の種類主な要因
摩擦損失水頭管路延長、内径、管内面の粗度、流速など
局部損失水頭曲管、分岐、弁、管径変化、流入・流出など

管路の損失水頭は流量によって変化する。摩擦係数や局部損失係数を一定とみなせる範囲では、損失水頭はおおむね流量の2乗に比例する。

ただし、摩擦係数は流れの状態や管内面の粗度によって変化するため、常に厳密な2乗関係が成立するわけではない。管路損失の算定方法や適用条件については、別記事「管路の損失水頭」で詳しく解説する。

5.全揚程とポンプの運転点

ポンプの全揚程は、吐出量によって変化する。一般的な遠心ポンプでは、吐出量が増加すると全揚程が低下する傾向があり、この関係を示したものをポンプのQ-H曲線(吐出量-全揚程曲線)という。

一方、管路設備では、流量が増加すると損失水頭が大きくなる。この関係に実揚程などの静的な水頭を加えて表したものが、管路の抵抗曲線である。

ポンプのQ-H曲線と管路の抵抗曲線が交わる点が、基本的な運転点となる。この運転点で、ポンプが発生する全揚程と管路設備が必要とする全揚程が釣り合う。

水槽の水位変化、弁の開度変更、管路条件の変化などによって抵抗曲線が変化すると、ポンプの運転点も変化する。また、ポンプの回転速度を変更した場合にはQ-H曲線自体が変化するため、全揚程と流量の関係も変わる。

6.設計・運転管理上の注意点

ポンプの全揚程を設定する際には、計画流量における実揚程と損失水頭を適切に評価する必要がある。水槽水位の変動や管路の使用条件を考慮し、想定される運転範囲について必要な全揚程を確認する。

特に、全揚程を過小に見積もると、必要な流量を確保できないおそれがある。一方、過大に設定すると、実際の運転点が想定から外れ、過大流量や動力の増加などにつながる場合がある。

運転中の全揚程を確認する場合は、吸込側と吐出側の圧力を測定し、測定断面の高さや管径の違いも考慮する。圧力計がポンプ本体から離れた位置に設置されている場合は、その間の管路損失を補正する必要がある。

吐出圧力だけを全揚程に換算すると、吸込圧力の影響を見落とすことになる。特に、吸込水槽の水位変化や吸込管の損失が大きい設備では、吸込側の圧力条件を把握することが重要である。

また、全揚程が十分であっても、吸込側の圧力条件によってはキャビテーションが発生する場合がある。このため、ポンプの選定では全揚程と流量だけでなく、必要NPSHと利用可能NPSHの関係も確認する必要がある。

なお、密閉水槽間の送水や自由噴流として吐出する設備などでは、単純な水位差と損失水頭の和だけでは全揚程を表せない場合がある。設備の境界条件に応じて、圧力水頭や速度水頭も含めたエネルギー収支を検討することが重要である。

関連用語

参考資料

  • 公益社団法人日本水道協会『水道施設設計指針(2024年版)』
  • JIS B 8301:2018『遠心ポンプ,斜流ポンプ及び軸流ポンプ―試験方法』
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この記事を書いた人

ふるさん
みずみちノートの執筆者・案内役

水道施設に古くから関わっている「古株」のフクロウ。上水道・工業用水道の技術を、基礎から現場での実務までわかりやすく案内します。

技術監修: 技術士(上下水道部門)

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