- 読み仮名
- こうぎょうようすいどうじぎょうほう
- 英語表記
- Industrial Water Supply Business Act
概要
工業用水道事業法は、工業用水道事業の適正かつ合理的な運営を図り、工業用水を豊富かつ低廉に供給することで、工業の健全な発達に寄与することを目的とした法律である。昭和33年(1958年)に制定され、事業の届出・許可、施設の維持管理、給水条件などを定めている。
工業用水道は、工場などの生産活動を支える重要な産業基盤である。この法律は、事業を始めるための手続きだけでなく、安定した給水を継続するための基本的なルールを示している。
1.工業用水道事業法の目的
工業用水道事業法第1条では、事業を適正かつ合理的に運営し、「工業用水の豊富低廉な供給」を図ることで、最終的に「工業の健全な発達に寄与する」ことを目的としている。
ここで重要なのは、水を供給すること自体が最終的な目的ではなく、工業用水の供給を通じて産業活動を支えることである。
適正かつ合理的な運営とは
工業用水道事業では、施設を適切に維持管理し、必要な設備投資を行いながら、効率的に事業を運営することが求められる。日常の保守点検や故障への対応、老朽化した施設の計画的な更新も、安定した事業運営に欠かせない。
一方、過剰な設備投資や不必要な経費は、供給コストの増加につながる。施設の安全性や供給の安定性を確保しながら、経済性とのバランスを考えることが重要である。
豊富低廉な供給とは
工場では、製造工程や冷却、洗浄などに多くの水が使用される。必要な水量が確保できなければ生産活動に支障が生じるため、工業用水道には安定した供給能力が求められる。
また、工業用水の料金は、工場の生産コストにも影響する。ただし、低廉な供給とは、単に料金を安くすることではない。 必要な維持管理や施設更新の費用を確保しながら、効率的な事業運営によって供給コストを抑えることが重要である。
工業の健全な発達に寄与する
工業用水道は、既存工場の操業を支えるとともに、新たな企業の立地や産業活動にも関係する。工業用水を安定して供給することは、地域の産業基盤を維持し、発展させるための重要な条件となる。
つまり、日々の運転管理や保守点検、施設更新などの業務も、最終的には工業の健全な発達を支えることにつながっている。
2.工業用水道の供給対象
法律で定める「工業」とは
工業用水道事業法第2条では、「工業」を次のように定義している。
- 製造業(物品の加工修理業を含む)
- 電気供給業
- ガス供給業
- 熱供給業
工業用水とは、これらの工業に使用する水のうち、水力発電用や、人の飲用に適する水として供給するものを除いた水である。
また、法律上の工業用水道事業とは、一般の需要に応じて、工業用水道により工業用水を供給する事業をいう。
工業以外への雑用水供給
工業用水道は、工業への給水を本来の目的とする事業である。ただし、供給能力に余剰がある場合には、一定の条件の下で、工業以外の用途にも「雑用水」として供給することが認められている。
例えば、公共施設の用水やビルの冷暖房用水などが対象となる。ただし、人の飲用に適する水として供給するものは含まれない。
雑用水供給は、工業用水の需要を優先する暫定的な供給である。 このため、供給対象や供給量などについて経済産業省の運用条件を確認する必要があり、供給量によっては計画書の提出も必要となる。

3.事業の届出と許可
工業用水道事業を始める場合、地方公共団体とそれ以外の事業者では、必要な手続きが異なる。
| 事業者 | 必要な手続き |
|---|---|
| 地方公共団体 | 経済産業大臣への届出 |
| 地方公共団体以外 | 経済産業大臣の許可 |
地方公共団体の場合、施設の設置工事を開始する60日前までに届出を行う。また、給水区域や給水能力などを変更する場合にも手続きが必要であり、変更工事を伴うときは原則として工事開始40日前までに届け出る。
さらに、施設の新設・変更工事を行った場合には、軽微な工事を除き、給水開始前の届出が必要となる。事業開始時の届出とは別の手続きであるため、注意が必要である。
4.施設基準と維持管理
工業用水道事業法第11条では、施設が備えるべき基準を定めている。取水施設や浄水施設、送配水施設などには、必要な水量を確保できる能力や、水圧・土圧・地震力などに対する構造的な安全性が求められる。
また、第14条では、事業者に対して施設を基準に適合するよう維持することを義務付けている。施設は建設時に基準を満たすだけでなく、供用開始後も必要な性能を維持しなければならない。
このため、ポンプ設備の点検、管路の漏水対策、老朽化施設の更新などは、安定した給水を続けるための重要な業務となる。
5.給水義務と供給規程
給水義務
第16条では、工業用水道事業者は、正当な理由がなければ、給水区域内における工業用水の供給を拒んではならないと定めている。
ただし、供給規程で定めた1給水先当たりの最少給水量に満たない場合などには、例外が認められる。
供給規程
第17条では、工業用水の料金や供給条件について、供給規程を定めることを義務付けている。
供給規程では、料金、給水条件、事業者と使用者の責任、設備の費用負担などを明確にする。また、料金は効率的な経営の下での適正な原価を踏まえ、公正妥当なものでなければならない。
地方公共団体の場合は供給規程の届出、それ以外の事業者の場合は認可が必要となる。なお、地方公共団体が経営する工業用水道事業には地方公営企業法も適用され、事業の経営や財務などについて定められている。
6.工業用水の水質測定
工業用水道事業法第19条では、供給する工業用水の水質を測定し、その結果を記録することを義務付けている。
測定項目は施行令で定められており、次の8項目である。
| 測定項目 | 主な確認内容 |
|---|---|
| 水温 | 水の温度 |
| 濁度 | 水の濁り |
| 水素イオン濃度(pH) | 酸性・アルカリ性 |
| アルカリ度 | 酸を中和する能力 |
| 硬度 | カルシウム・マグネシウムなどによる硬度 |
| 蒸発残留物 | 水中の溶解成分などの量 |
| 塩素イオン | 塩化物イオンの濃度 |
| 鉄イオン | 鉄イオンの濃度 |
測定は、原則として工業用水の供給日に毎日1回、一定の時間に行う。ただし、アルカリ度から鉄イオンまでの5項目については、原水の状態や供給条件などに応じ、経済産業大臣の承認を受けて測定を省略できる場合がある。
なお、これらは法令で定められた水質測定項目であり、全国一律の供給水質基準を示したものではない。 実際の水質管理では、使用者との供給条件なども考慮する必要がある。
7.自家用工業用水道と関連法令
自家用工業用水道
工業用水道事業法では、一般の需要に応じて工業用水を供給する事業のほか、一定規模以上の自家用工業用水道についても届出制度を設けている。
届出対象となるのは、原則として1日最大給水量5,000m³以上の施設である。ただし、この水量の算定では、海水や他の工業用水道から供給される水、工業用水法の許可井戸から供給される水などを除く。
対象となる施設は、給水開始後、遅滞なく経済産業大臣に届け出る必要がある。
工業用水法との違い
「工業用水道事業法」と「工業用水法」は、名称が似ているが目的の異なる法律である。
| 法律 | 主な目的 |
|---|---|
| 工業用水道事業法 | 工業用水道事業の適正な運営と豊富低廉な供給 |
| 工業用水法 | 工業用地下水の採取規制による地下水源の保全や地盤沈下の防止 |
工業用水法では、指定地域における工業用地下水の採取を規制している。地下水から工業用水道への水源転換は、地盤沈下対策としても重要な役割を果たしてきた。
両法律は目的が異なるものの、工業用水の安定供給と水資源の適正利用という点で関係している。

