ろ過池の逆洗

読み仮名
ろかちのぎゃくせん
英語表記
Filter backwashing
目次

概要

ろ過池の逆洗とは、通常のろ過とは反対方向に洗浄水を流し、ろ層に蓄積した濁質を取り除く操作である。急速ろ過池では、逆洗によって損失水頭を低減し、ろ過能力を回復させるとともに、ろ過水質の安定を図る。

本記事では、上から下へ水を通す下向流式の急速ろ過池を対象とする。逆洗の開始判断から洗浄、初期ろ過水の排水、通常ろ過への復帰までを、一連の運転として整理する。

逆洗の仕組み

通常ろ過では、ろ層の上から下へ水を通し、ろ過水を下部集水装置から取り出す。ろ過を続けると、ろ材の表面や粒子間に濁質が蓄積し、水の流れに対する抵抗が増加する。

逆洗では、下部集水装置から洗浄水を上向きに分配し、ろ材を動かして付着した濁質を剥離する。水洗によってろ層が流動する状態では、ろ材粒子の間隔が広がってろ層全体が膨張し、剥離した濁質が上部の排水トラフなどから洗浄水とともに排出される。

洗浄水量が不足すると濁質が残りやすく、過大になるとろ材が流出するおそれがある。ろ層の膨張状態は水温、ろ材の粒径や密度などによって変わるため、同じ流量を与え続ければよいとは限らない。

下向流の通常ろ過と上向流の逆流洗浄を比較した模式図。逆洗では下部集水装置から洗浄水を送り、ろ層を膨張させ、剥離した濁質を上部から洗浄排水として排出する。

ろ過池の洗浄方式

逆洗は、主として水による逆流洗浄を指す。表面洗浄や空気洗浄は、濁質をほぐして剥離を促し、逆流洗浄の効果を高めるために組み合わせる操作である。

洗浄方式主な働きと位置付け
逆流洗浄(水洗)下部から上向きに洗浄水を流し、付着した濁質を剥離するとともに、ろ層の外へ運び出す。
表面洗浄(表洗)ろ層表面付近のノズルから水を噴射し、表層部に蓄積した濁質をほぐす。逆流洗浄と組み合わせて用いる。
空気洗浄(空洗)ろ層の下部から空気を送り、気泡によるろ材の動きで付着した濁質を剥離する。濁質の排出には水による洗浄を組み合わせる。
気水併用洗浄空気と水を同時に供給する工程を設ける方式である。空気を止めた後に水だけで洗浄するなど、設備に適した工程で濁質を排出する。

表面洗浄を先に開始し、その後に逆流洗浄を重ねる方式や、空気洗浄と水洗を順次または同時に行う方式がある。すべての設備で表洗・空洗の両方を行うわけではなく、ろ材構成と下部集水装置、洗浄設備の仕様に適合した組合せを用いる。

水で濁質を排出する逆流洗浄、表層の濁質をほぐす表面洗浄、気泡で濁質を剥離する空気洗浄の比較。表洗と空洗は逆洗に組み合わせ、気水併用では空気と水を同時に供給する。

逆洗の実施判断

逆洗の開始時期は、あらかじめ定めたろ過継続時間と損失水頭の管理値を基本に判断する。通常は、いずれかの設定値に達した段階で洗浄に移るが、水質異常が生じた場合は時間や損失水頭の設定値を待たずに対応する。

ろ過継続時間による判断

ろ過継続時間は、洗浄後にろ過を開始してから運転を続けている時間である。あらかじめ定めた時間に達した場合は、損失水頭が管理値未満でも逆洗を実施する。

管理時間は、原水や沈殿処理水の水質、ろ過速度、ろ材構成、過去の洗浄実績などを踏まえて設定する。すべてのろ過池に共通する一定時間として扱わず、季節や水質の変化に応じて見直す。

ろ過抵抗(損失水頭)による判断

損失水頭は、水がろ層などを通過するときに流れの抵抗によって失われる水頭である。一定のろ過速度で運転する場合、濁質が蓄積するほど通水に必要な水頭差が大きくなるため、その増加を洗浄時期の判断に用いる。

設定した管理値に達した場合は、予定したろ過継続時間より早くても逆洗する。測定値にはろ過速度や測定区間などが影響するため、単純な圧力差だけで判断せず、各施設の損失水頭計の測定方法と運転条件を確認する。

ろ過水質による判断

ろ過水濁度の上昇などが見られた場合は、継続時間や損失水頭が管理範囲内でも、当該ろ過池からの送水を止めるなど、施設の異常時手順に沿って水質確保を優先する。濁質の漏出、凝集・沈殿処理の不調、流量の急変、計器や集水装置の異常などを確認し、必要な洗浄や点検を行う。

水質異常は、逆洗だけで解消するとは限らない。洗浄後も異常が続く場合は、前処理からろ過水の採水・測定までを確認し、原因を取り除いたうえで復帰を判断する。

一般的な逆洗工程

ここでは、表面洗浄を併用する重力式急速ろ過池を例に、通常ろ過から復帰までの流れを示す。実際の工程、洗浄の重なり方、弁の操作順序、水位、流量および時間は、設備ごとの運転手順による。

ろ過停止

対象池への流入とろ過水の流出を所定の手順で停止し、洗浄水や濁水が供給側へ流れ込まない状態にする。停止する池の水量を他の池で補う場合は、残る池のろ過速度を急変させず、処理能力に余裕があることを確認する。

排水・水位調整

池内の水を排出し、表面洗浄などを行うための所定の水位に調整する。この操作は逆洗前の水位調整であり、ろ過再開後の初期ろ過水を排出する「捨て水」とは区別する。

表面洗浄

表洗設備から水を噴射し、ろ層表面付近に蓄積した濁質をほぐす。表洗を先行させてから逆流洗浄を開始し、両者を一定時間重ねる設備もあるため、工程図を完全に分離した操作と読み替えないことが重要である。

逆流洗浄

下部から洗浄水を送り、ろ層全体に均等な上向流をつくる。ろ層の膨張、洗浄水の湧き上がり方、排水の濁り、ろ材流出の有無を確認しながら、濁質を排水トラフへ運び出す。

空気洗浄を用いる設備では、専用の送気設備と下部集水装置に適した手順で空気を供給する。空洗の後に水洗する方式や気水を同時に供給する方式があり、表洗との組合せを含め、設備の仕様によって工程が異なる。

洗浄終了・ろ層沈降

洗浄排水の濁度などが所定の終了条件を満たしたことを確認し、洗浄流量を段階的に減らして停止する。ろ材を沈降させ、ろ層が安定するまで所定の時間を確保する。

洗浄排水の濁りが低下していても、ろ層内部に濁質が残っている場合がある。洗浄の良否は、排水の状態に加え、再開後の損失水頭、ろ過水質、次の洗浄までの継続時間なども合わせて評価する。

ろ過再開と初期ろ過水の排水

所定の水位と流路を確認し、必要に応じて低いろ過速度から段階的に通水を再開する。初期ろ過水は再開時から排水系統へ導き、水質が安定したことを確認してから、浄水池などへ送る通常の供給系統に切り替える。

図では「ろ過再開」と「初期ろ過水の排水」を別の工程として示すが、捨て水は再開直後から行う操作である。再開した水をいったん供給側へ送り、その後に排水へ切り替えるという意味ではない。

表洗を併用する急速ろ過池の工程例。通常ろ過、ろ過停止、排水・水位調整、表面洗浄、逆流洗浄、洗浄終了・ろ層沈降、ろ過再開、初期ろ過水の排水、通常ろ過へ復帰の順に進む。初期ろ過水は再開時から排水する。

逆洗時の問題と維持管理

逆洗では、洗浄水の量や時間だけでなく、ろ層全体が均等に洗われているかを確認する。洗浄直後の状態と、その後のろ過運転の変化を続けて観察すると、洗浄不足や設備異常を見つけやすい。

問題・兆候主な確認と対応
洗浄不足・濁質残留洗浄流量、時間、水温、表洗・空洗の作動を確認する。再開直後から損失水頭が高い場合や、継続時間が短くなった場合は、ろ材の汚れと前処理の状態も調べる。
マッドボール濁質とろ材が塊になったもので、洗浄不足などによって形成される。洗浄条件の見直しに加え、必要に応じて塊の除去やろ材の補修・交換を行う。
ろ材流出過大な洗浄流量や膨張、ろ材の粒径・密度、排水トラフとの高さ関係を確認する。排水中のろ材とろ層厚の減少に注意する。
ろ層の乱れ表面の凹凸、亀裂、局部的な盛上がりなどを確認する。流量の急変や不均一な洗浄を調べ、複層ろ過では層構成の変化にも注意する。
洗浄水の偏流・下部集水装置の異常一部だけ強く湧き上がる、洗われにくい部分がある場合は、ノズルの閉塞、破損、支持層の乱れなどを疑う。異常箇所を確認し、必要な点検・補修を行う。
逆洗排水の処理濁質を多く含む排水を排水処理系統へ導き、施設に応じた貯留、沈殿、汚泥処理などを行う。原水側へ返送する場合は、濁質の低減と返送量の管理を行い、前処理への急激な負荷を避ける。

洗浄水は原則として浄水を用い、浄水以外を使う場合は、採用する処理方式に適合した水質を確保する。工業用水道では供給水質や処理構成が上水道と異なるため、洗浄水質、復帰条件、排水の扱いを施設の目的に合わせて定める。

逆洗後のろ過再開と水質管理

逆洗直後は、残留した濁質やろ材の状態などの影響により、ろ過水濁度が一時的に上昇することがある。通常ろ過への復帰は、あらかじめ定めた捨て水時間の経過だけで決めず、ろ過水質が所定の管理条件を満たし、安定していることを確認して判断する。

水質の確認には、適切に点検・校正された濁度計を用いる。各池の出口水質を把握することを基本とし、初期ろ過水が排水側に流れている間も、その水質を確認できる採水・計測方法を確保する。

水質が安定しない場合は供給系統への切替えを保留し、ろ過速度、前処理、洗浄状態、ろ材・集水装置などを確認する。洗浄開始前の状態、洗浄条件、再開後の濁度と損失水頭を記録し、次回の運転条件の見直しに役立てる。

上水道では、「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」に沿った運転管理も必要である。逆流洗浄の適正な実施、洗浄排水を原水へ返送する際の管理、洗浄後のろ過再開時の水質確保には、それぞれ留意事項があり、逆洗をろ過能力の回復だけで完結させないことが重要である。

ろ過再開直後は供給側を閉じ、濁度を確認しながら初期ろ過水を排水する。水質が安定した後、排水を止めて通常の供給系統へ切り替える流路の比較。

まとめ

ろ過池の逆洗は、ろ層に蓄積した濁質を取り除き、損失水頭を低減してろ過能力を回復させる操作である。開始時期はろ過継続時間と損失水頭を基本に判断し、水質異常があれば設定値を待たずに対応する。

適切な逆洗には、ろ材と設備に合った洗浄方式、均等な洗浄、排水の管理が必要である。さらに、初期ろ過水を排出し、水質の安定を確認して通常ろ過へ戻すまでを一連の運転として管理する。

関連用語

参考資料

  • 日本水道協会『水道施設設計指針2024』第5編「浄水施設」、5.5.10「洗浄方式」、5.5.11「洗浄水量等」、5.5.12「洗浄タンクおよび洗浄ポンプ等」。
  • 日本工業用水協会『工業用水道維持管理指針2015』第3章「浄水施設の管理」、3.6「急速ろ過池」(特に3.6.2〜3.6.4)。
  • 厚生労働省「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」(令和元年5月29日一部改正)、3「予防対策」中の運転管理に関する事項。国土交通省掲載資料。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ふるさん
みずみちノートの執筆者・案内役

水道施設に古くから関わっている「古株」のフクロウ。上水道・工業用水道の技術を、基礎から現場での実務までわかりやすく案内します。

技術監修: 技術士(上下水道部門)

ふるさんについて詳しく見る

目次