残留塩素の減衰

読み仮名
ざんりゅうえんそのげんすい
英語表記
Residual chlorine decay
目次

概要

残留塩素の減衰とは、水中に残る消毒作用を持つ塩素の濃度が、時間の経過とともに低下する現象である。浄水場から配水池、配水管、給水管を経て給水栓に至るまでの間にも、水中の物質や管内面との反応などによって減衰が進む。

末端で必要な残留塩素を確保するには、浄水場出口の濃度だけでなく、水温、水質、配水経路、滞留時間を把握することが重要である。同じ濃度の水を送り出しても、給水栓までの到達時間や途中の条件が異なれば、到達時の濃度は同じにならない。

本記事は、主に遊離残留塩素で管理する上水道の配水過程を対象とする。工業用水道では、塩素処理の有無や供給条件、需要者の用途によって管理方法が異なり、上水道の給水栓における残留塩素の保持条件を一律に適用するものではない。

1.残留塩素の減衰とは

残留塩素は、塩素処理後の水に有効塩素として残っている塩素であり、配水過程の衛生確保に役立つ。主に、次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンとして存在する遊離残留塩素と、クロラミン類などに由来する結合残留塩素に分けられる。

塩素消費は、水中の有機物・還元性物質や管壁などとの反応によって塩素が使われることを指す。一方、減衰は、そのような反応などの結果として、時間とともに残留塩素濃度が低下する現象を捉えた言葉である。

両者は別々の出来事ではなく、塩素消費が減衰を引き起こす要因となる。ただし、遊離塩素がアンモニアなどと反応して結合塩素になる場合には、遊離残留塩素が減っても、その減少分がすべて全残留塩素の消失になるわけではない。

濃度を比較するときは、遊離・結合・全残留塩素のどれを測定した値かを揃える必要がある。また、ある地点の測定値の低下には、反応による減衰だけでなく、濃度の異なる水の流入や混合、注入条件の変化も関係する。

給水栓で確保すべき濃度

水道法施行規則第17条第1項第3号は、通常の場合、給水栓の水が遊離残留塩素0.1mg/L以上、結合残留塩素の場合は0.4mg/L以上を保持するよう塩素消毒を行うことを定めている。供給する水が病原生物に著しく汚染されるおそれがある場合、又は病原生物による汚染を疑わせる生物若しくは物質を多量に含むおそれがある場合には、次の高い保持濃度が適用される。

区分給水栓で保持すべき濃度
通常の場合遊離残留塩素0.1mg/L以上。結合残留塩素の場合は0.4mg/L以上
上記の汚染のおそれがある場合遊離残留塩素0.2mg/L以上。結合残留塩素の場合は1.5mg/L以上

これらは給水栓での保持条件であり、浄水場出口や配水管末端の監視地点における一律の設定値ではない。事業体の管理目標値や警報値は、給水栓までの減衰や変動を見込み、必要な余裕を持たせて設定する。

残留塩素には、水質管理目標設定項目として1mg/L以下という目標値もある。これは法令上の最低保持濃度とも、事業体が施設ごとに設定する運転管理目標とも区別して扱う。

2.残留塩素が減衰する仕組み

配水管内の塩素消費は、水中で生じる反応と、管壁や付着物との反応に分けて考えると理解しやすい。どちらの影響が大きいかは、水質、管内面の状態、流況などによって異なる。

反応の区分主な内容
水中での反応(バルク反応)水中の有機物や還元性物質などと塩素が反応する
管壁との反応(管壁反応)管内面、腐食生成物、付着物、生物膜などに関係する物質と塩素が反応する
配水管内の残留塩素が、水中の有機物・還元性物質や管壁の腐食生成物・付着物との反応によって減少する仕組みを示した模式図。

水中反応は、同じ浄水であっても、有機物の量と性質、亜硝酸などの反応性物質の存在によって変化する。一般に水温が高くなると反応が速くなり、同じ経過時間でも残留塩素が低下しやすくなる。

管壁反応は、管材だけで決まるものではなく、内面被覆の種類と状態、経年変化、腐食生成物や付着物などの影響を受ける。水中から管壁へ塩素が運ばれる過程も関係するため、流速が変わると管壁での消費の程度が変わることもある。

円形の満管では、管内表面積を管内の水の体積で割った値は4/Dである。Dは内径であり、他の条件が同じなら、小口径管ほど単位水量当たりの管壁面積が大きく、管壁反応の影響が相対的に大きくなり得る。

ただし、これだけで小口径管の到達時濃度が必ず低いとは判断できない。同じ流量で比較すれば、大口径管は流速が小さくなり、同じ延長を通過する時間が長くなるため、管壁面積と到達時間の両方を評価する必要がある。

3.減衰に影響する条件

減衰の大きさは、反応の速さと、水がその条件に置かれる時間の組合せで変わる。主な条件と確認点は次のとおりである。

条件管理上の確認点
水温高水温時には反応が速くなりやすい。季節や地点ごとの実測水温を確認する
滞留時間配水池や管路で時間が長くなるほど、反応が進む時間も長くなる
水中の反応性物質有機物などの量と性質、処理水質の変化を確認する
初期残留塩素濃度出発点の濃度が到達時濃度に影響する。実際の減衰速度との関係は水質や反応条件で変わる
管種・管内面内面被覆、腐食、付着物、更新や洗管の履歴を確認する
管径・延長単位水量当たりの管壁面積と、流量に応じた通過時間を併せて評価する
配水池の流れ実際の貯留量、流入・流出量、混合状態、短絡流、滞留域を確認する
管網の流況分岐・合流、流向、需要変動、系統切替による到達経路の変化を確認する

夏季は水温上昇によって減衰が速くなりやすいが、水需要の増加で水の入替えが進み、到達時間が短くなる場合もある。反対に、休業や人口減少などで需要が少ない区域では、高水温と長時間滞留が重なり、管理が難しくなることがある。

配水池では、貯留量を流出量で割った値が水の入替えを考える目安となるが、すべての水が同じ時間で入れ替わるわけではない。流入水が早く流出する短絡流と、古い水が残る滞留域が併存する場合もあり、容量だけでは池内の水齢を把握できない。

4.配水管末端における残留塩素の低下

浄水場から給水栓までの到達時間は、距離だけでなく、管径、流量、配水池での貯留、通過する経路によって変わる。水が供給元などの基準点を出てから経過した時間を、水齢として評価することもある。

同じ濃度の水を配水しても、水温や反応条件が同じなら、到達時間の長い経路ほど減衰が進みやすい。近い場所でも使用水量が少なければ水が入れ替わりにくく、遠い場所でも幹線の流量が大きければ比較的短時間で届くことがある。

配水池出口の遊離残留塩素を0.50mg/Lとし、同じ反応条件で6時間後に約0.42mg/L、24時間後に約0.24mg/Lとなる2つの配水経路を示した概念計算例。実測値ではない。

行き止まり管や配水ブロックの境界付近では、使用水量が少なくなると、長時間滞留する区間が生じることがある。夜間などの需要が少ない時間帯に滞留が進み、その水が後の時間帯に給水栓へ届く場合もあるため、濃度低下と需要変化の時刻が一致するとは限らない。

配水池から流出する水の濃度も、流入濃度、貯留時間、池内の混合状態によって変動する。末端で低い値が確認された場合は、その地点だけを調べず、到達時間を考慮して浄水場・配水池の記録と照合することが重要である。

系統切替や弁の開閉によって流向・流量配分が変わると、水の到達経路や混合割合も変化する。複数の供給元がある区域では、流れが小さくなる合流付近などが問題となる場合もあり、図面上の末端が常に最低濃度地点になるとは限らない。

配水管末端での監視は、低下しやすい区域を把握するために有効である。ただし、給水管や受水槽以降でさらに変化する場合があるため、配水管の監視値だけで給水栓の法令適合を一律に判断しない。

5.残留塩素の減衰予測と水質解析

残留塩素の時間変化を表す基本例として、一次反応モデルがある。水温や水質などの条件が一定で、減少速度がその時点の濃度に比例すると仮定した場合、次式で表される。

C(t) = C₀ × e^(−kt)

記号意味・単位
C(t)時間tにおける残留塩素濃度(mg/L)
C₀計算開始時の残留塩素濃度(mg/L)
t計算開始からの経過時間(h)
k減衰速度係数(h⁻¹)。本式では減衰を正の値で表す
e自然対数の底(無次元)

例えば、C₀=0.50mg/L、k=0.030h⁻¹と仮定すると、6時間後は約0.42mg/L、24時間後は約0.24mg/Lとなる。本例のkは水中反応と管壁反応などをまとめた見かけの係数であり、数値は時間の影響を示すための仮定値で、実測値や管理目標値ではない。

実際の減衰は、反応性物質、管壁反応、温度変化などに左右され、一つの一次反応式で全区間・全期間を表せるとは限らない。管壁反応を零次反応で表した研究例もあり、反応次数は実測に基づいて選ぶ。

水中反応の係数は、管壁の影響を避けた容器で、水温などの条件を揃えて濃度の時間変化を測定し、推定できる。管路内の実測値と比較して管壁の影響を検討する際は、水理や混合の誤差を管壁反応に含めないよう注意する。

EPANETなどでは、流量・流向の時間変化に、水の移動、混合、水中反応、管壁反応を組み合わせて濃度を計算する。水齢解析は滞留箇所の把握に役立つが、水齢だけでは濃度は決まらない。

EPANET 2.2の入力係数は反応次数により単位が異なり、減衰には負の値を用いる。SI系の代表例は次のとおりで、時間をhとした本記事の正のkとは区別する。

係数反応次数と入力単位
水中反応係数一次反応では日⁻¹。一般にn次反応では濃度^(1−n)/日
管壁反応係数一次反応ではm/日、零次反応では質量/(m²・日)。質量単位は水質設定に合わせる

水中反応は容器試験、管壁反応は現地データなどに基づいて設定し、必要に応じて管路別に与える。供給濃度、需要量、配水池水位などの水理条件を確認したうえで実測値に合わせて係数を調整し、別の日や季節でも再現性を確認する。

6.末端残留塩素を確保するための対策

対策は、注入不足、反応、長時間滞留などの原因に応じて選ぶ。給水栓で必要な濃度を確保できない場合は、安全確保を優先し、事業体の手順に従って原因調査と必要な措置を速やかに行う。

浄水場の塩素注入管理、配水池の滞留改善、管路の流況改善、途中での追加塩素注入、重要地点や給水栓の監視を組み合わせる対策を示した模式図。

浄水場での塩素注入管理

必要な消毒効果と接触時間を確保し、配水池・給水栓の実測値から塩素注入率を調整する。注入率と出口残留塩素濃度は同じではなく、処理水量、水質、薬液の有効塩素濃度、注入設備を併せて確認する。

注入増加だけに頼ると、近傍の濃度や塩素臭を高め、条件によっては消毒副生成物も増やす。滞留改善や追加注入を組み合わせ、区域全体で適切な濃度を保つ必要がある。

配水池・管網の運用と維持管理

配水池では、実需要に対する貯留量、運用水位、各池の流入・流出量を見直す。流入・流出位置、導流壁、混合設備の改善は、池内の流れと濃度分布から効果を確認する。

水位や使用池数の変更時も、必要水圧、需要調整、非常時対応、消火用水を確保する。混合だけでは水の入替えが速くなるとは限らず、貯留量と流入・流出の運用も調整する。

管路末端やブロック境界、低需要区域では、供給系統、弁の運用、流量配分を見直す。管網解析で水圧・供給能力を確認し、水の入替えを改善できるか評価する。

連絡やループ化だけでは、流量が分散して滞留が残る場合もある。流速増加や逆流による濁水が懸念される区間では、切替前の洗管と切替後の監視を計画する。

堆積物・付着物が塩素消費に関係する場合は、管内面と除去対象を確認し、洗管や更新を検討する。滞留水の入替えを目的とする排水と、付着物等を除去する洗管は区別する。

洗管で管壁反応がすべて解消するとは限らず、効果の持続を実測で確認する。排水時は周辺水圧、排水能力、放流条件、残留塩素の処理を確認する。

追加塩素注入と水質監視

長い送配水経路や貯留によって大きく減衰する場合は、配水池や配水途中で追加注入する方法がある。浄水場近傍の濃度を過度に高めず、遠方で必要な濃度を確保しやすくなる。

注入位置は流量・流向が把握でき、十分な混合と必要な接触を確保できる場所を選ぶ。低需要・無流量時や流向変更時にも対応し、停止条件、注入上限、警報、下流側の濃度監視により過剰注入を防ぐ。

追加注入より上流も適切に管理し、残留塩素不足を容認しない。薬液の品質・保管状態と、制御に用いる測定値の到達遅れも確認する。

監視点は浄水場出口、配水池の流入・流出、低下しやすい区間、代表的な給水栓に設定する。水温、流量、水位、時刻も記録し、季節・時間帯・系統変更の影響を把握する。

異常時は速やかに現地再測定し、計器と採水配管も点検する。採水配管での塩素消費を調べるには、採水点と測定点の値を比較する。

対策後は到達時間を見込んで対象区域を測定し、給水栓で必要な濃度を確保できているか確認する。採水後も濃度は変化するため、現地では速やかに測定する。

関連用語

参考資料

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この記事を書いた人

ふるさん
みずみちノートの執筆者・案内役

水道施設に古くから関わっている「古株」のフクロウ。上水道・工業用水道の技術を、基礎から現場での実務までわかりやすく案内します。

技術監修: 技術士(上下水道部門)

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