- 読み仮名
- かんもうかいせき
- 英語表記
- Water distribution network analysis
概要
管網解析とは、水道管路の接続関係や管径、延長、需要量などをモデル化し、配水管網内の流量や圧力分布を計算する技術である。管路の新設・更新計画をはじめ、配水圧力の検討、施設の運転管理、管路事故時の供給能力の評価などに用いられる。
配水管網では、需要量や配水池の水位、ポンプの運転状態、制水弁の開閉状態などによって、水の流れる方向や圧力が変化する。管網解析は、これらの条件を設定し、管路全体の水理状態を把握するとともに、施設計画や運転条件の妥当性を検討するための有効な手段である。
1.管網解析の基本
配水管網は、浄水場や配水池などの供給施設から需要者へ水を送る管路の集合であり、管路の分岐や合流によって構成される。管網解析では、これらの管路を一つの水理的な系統として扱い、各管路の流量と各地点の水頭を計算する。
管網の構成には、管路が枝分かれして延びる樹枝状管網と、管路が環状に接続されたループ状管網がある。樹枝状管網は流路が比較的単純であるが、事故時には下流側への供給が制限されやすい。一方、ループ状管網は複数の経路から供給できる場合があり、事故時の代替供給に有利である。
ループ状管網では、ある地点の需要量や管路の通水条件が変化すると、ほかの管路の流量や圧力にも影響が及ぶことがある。条件によっては流量方向が逆転することもあり、個々の管路だけでは把握しにくい水理状態を評価できることが、管網解析の大きな特徴である。
管網解析によって、管路ごとの流量、流速、損失水頭や、各節点の水頭・圧力などを求めることができる。これにより、必要な供給圧力を確保できるか、特定の管路に流量が集中していないかなどを検討する。
一般的な管網解析には、一定の需要量や運転条件における水理状態を求める定常解析と、時間帯による需要量や水槽水位などの変化を考慮する延長期間解析がある。
なお、ポンプ停止や弁の急閉鎖などによって生じる急激な圧力変動は、一般的な管網解析とは区別し、水撃作用を対象とする過渡水理解析によって検討する必要がある。
2.管網モデルの構成
管網解析では、実際の配水管網を節点(ノード)と管路(リンク)によってモデル化する。節点は管路の接続点や需要地点などを表し、管路は節点間をつなぐ水の流路を表す。

解析モデルには、管路の構成だけでなく、水理計算に必要な施設条件や需要量を設定する。
| モデルの要素 | 主な設定内容 |
|---|---|
| 節点 | 標高、需要量、管路の接続関係 |
| 管路 | 管径、延長、粗度、局部損失など |
| 配水池・水槽 | 水位、水頭、貯留条件 |
| ポンプ | 揚程と流量の関係、運転状態 |
| 制水弁・減圧弁 | 開閉状態、損失特性、設定圧力など |
需要節点には、使用水量や標高などを設定する。一方、配水池などの水頭を与える境界条件は、一般的な需要節点とは区別して扱い、貯留量が変化する水槽については、その水位変動も考慮する。
管路の損失水頭は、管径や延長、流量、管内面の状態などによって変化する。そのため、管路台帳や施設図面などを基に、管径、延長、接続関係などを正確に反映する必要がある。
また、需要量は、各需要者の使用水量や配水区域の水量実績などに基づいて設定する。需要量の配分が実際と異なれば、管路ごとの流量配分や節点圧力にも差が生じるため、需要地点と使用水量の設定は重要である。
自然流下方式では、配水池の水位と各節点の標高が重要な条件となる。ポンプ圧送方式では、ポンプの運転台数や揚程特性によって、管網全体の流量・圧力分布が変化する。
3.管網解析の基本原理
管網解析は、節点における流量の連続条件と、管路における水頭の関係を満たすように計算するものである。
3.1 節点における流量の連続条件
節点では、流入する流量と流出する流量の収支が成立する必要がある。需要者への供給がある場合には、その需要量を考慮する。

例えば、ある節点への流入量が毎秒30L、下流側の管路への流出量が毎秒20Lであれば、残りの毎秒10Lがその節点の需要量に相当する。
この関係は、次のように表される。
流入量 = 流出量 + 需要量
実際の解析では、管路ごとに計算上の正方向を定めることがある。計算結果が負となった場合は、設定した正方向と反対に流れていることを意味し、必ずしも計算の誤りではない。
3.2 管路の損失水頭とエネルギー条件
管路内を水が流れると、管壁との摩擦や弁類、曲がり部などによって水頭損失が生じる。損失水頭の算定には、Hazen-Williams式やDarcy-Weisbach式などが用いられる。
一般的な管網解析では、管路の上流側と下流側の節点水頭の差を、管路の損失水頭として扱う。ポンプがある場合には、その揚程による水頭の増加も考慮する。
また、ループ状管網では、閉じた管路経路に沿って水頭変化を合計するとゼロになる関係を利用する。ポンプによる水頭増加がある場合は、その影響も考慮する。
3.2.1 流速係数(C値)の設定
管網解析で管路の損失水頭を計算する際には、管内面の状態を適切に評価することが重要である。
水道管路の水理計算で広く用いられるHazen-Williams式では、管路の水の流れやすさを表す係数として、流速係数(C値)を使用する。
C値が大きいほど、同じ管径・流量・延長における摩擦損失水頭は小さくなり、C値が小さいほど摩擦損失水頭は大きくなる。
一般的な新設管路の設計におけるC値の設定例を次に示す。
| 計算条件 | C値の目安 | 考え方 |
|---|---|---|
| 屈曲部などの局部損失を含む管路全体 | 110 | 局部損失を含めて管路全体の損失を評価する場合 |
| 直管部の摩擦損失のみ | 130 | 屈曲部や弁類などの局部損失を別途計算する場合 |
これらは一般的な設計上の目安であり、すべての管種や管路条件に一律に適用するものではない。管種、内面被覆、採用する設計基準、局部損失の計算方法などに応じて適切な値を設定する必要がある。
既設管路では、C値の設定に特に注意が必要である。
既設管の通水能力は、管齢だけでなく、管内面の腐食、錆こぶ、付着物、内面被覆の状態などによって変化する。
そのため、既設管のC値を単に布設年度や管種だけで決定するのではなく、必要に応じて現地の流量・圧力測定結果などを用いて、実際の通水状態を評価することが重要である。
また、管網解析では、C値を変更すると各管路の損失水頭だけでなく、管網内の流量配分や節点圧力にも影響が及ぶ。
特に、既設管の更新計画や事故時の代替供給能力を検討する場合には、C値の設定根拠を明確にし、必要に応じて複数の条件による解析を行うことが望ましい。
なお、C値はHazen-Williams式で使用する係数であり、Darcy-Weisbach式など、別の損失水頭公式を用いる場合は、その計算方法に応じた粗度等の設定が必要となる。
3.3 節点水頭と圧力の関係
管網解析で求められる節点の水理水頭は、位置水頭と圧力水頭の和である。
H = z + p/(ρg)
- H:水理水頭(m)
- z:節点標高(m)
- p:ゲージ圧力(Pa)
- ρ:水の密度(kg/m³)
- g:重力加速度(m/s²)
したがって、節点の圧力水頭は次のようになる。
p/(ρg) = H − z
同じ水理水頭であっても、節点の標高が異なれば圧力は異なる。また、管路の標高が下がる場合には、水頭損失が発生していても圧力が高くなることがある。
3.4 主な解析方法
管網解析の代表的な計算方法には、ループ内の流量を修正して水頭損失の収支を合わせるHardy Cross法や、節点水頭を未知数として計算する方法などがある。
現在は、ニュートン法を応用した反復計算や勾配法などを用いる解析ソフトウェアが利用されている。代表的なものに、米国環境保護庁(EPA)が公開しているEPANETがある。
これらの方法は計算手順が異なるものの、流量の連続条件と水頭の関係を満たす水理状態を求める点で共通している。
4.解析条件と結果の評価
管網解析では、施設条件や需要量を適切に設定し、目的に応じた複数の条件を比較することが重要である。
例えば、最大需要時には流量の増加によって管路損失が大きくなり、末端部などで圧力が低下する場合がある。一方、最小需要時には管路損失が小さくなり、低地部などで圧力が高くなる場合がある。
主な解析条件と確認事項を次に示す。
| 解析条件 | 主な確認事項 |
|---|---|
| 通常需要時 | 平常運転における流量・圧力分布 |
| 最大需要時 | 必要な供給圧力、過大な流速の有無 |
| 最小需要時 | 高水圧となる地点、圧力制御の必要性 |
| 配水池水位の変化 | 水位低下時の供給圧力 |
| ポンプ運転条件の変更 | 運転台数や揚程による流量・圧力の変化 |
| 管路事故・系統切替え | 代替経路による供給能力、圧力不足の有無 |
解析結果では、各管路の流量や流速、節点の水理水頭、圧力などを確認する。計算値を示すだけでなく、施設ごとに必要な供給条件を満たしているかを評価し、問題がある場合には管径や配水系統、運転条件などを見直す。
管路事故時の解析では、事故区間を制水弁によって遮断した状態を想定する。この場合、事故管路だけでなく、実際の制水弁配置と閉鎖範囲を反映する必要がある。

ループ状管網では、事故区間の遮断によって流量方向が変化し、別の管路に流量が集中することがある。そのため、供給可能な範囲だけでなく、代替経路の流速や節点圧力も確認する。
また、需要量を固定して計算する解析では、圧力が不足していても設定需要量を満たす計算結果となる場合がある。必要に応じて圧力依存型の需要解析を用いるなど、解析方法と結果の解釈に注意する必要がある。
5.解析モデルの検証と更新
管網解析の精度は、計算手法だけでなく、入力データの正確性に大きく左右される。計算プログラムが正常に終了しても、入力条件が誤っていれば、実際の施設状況と異なる結果が得られることがある。
5.1 入力データの確認
管網解析では、多数の節点や管路に対して、管径、延長、標高、需要量などを設定する。このため、数値の入力間違いや単位の混同、管路の接続先の誤りなど、入力作業に伴うヒューマンエラーに注意する必要がある。
主な入力ミスと、その影響を次に示す。
| 入力ミス | 解析結果への影響 |
|---|---|
| 管径・延長の間違い | 損失水頭や流量配分が変わる |
| 管路の接続先の間違い | 実際と異なる流路が形成される |
| 節点標高の間違い | 節点圧力の計算値が変わる |
| 需要量の単位間違い | 流量・圧力分布が大きく変わる |
| 制水弁の開閉設定の間違い | 実際と異なる配水系統になる |
| 配水池水位の間違い | 管網全体の水頭条件が変わる |
入力データの確認では、管路台帳や施設図面との照合に加え、管径や標高などの異常値、管路の接続関係、使用する単位の統一などを確認する。特に、表計算ソフトなどから大量のデータを取り込む場合には、データの対応関係や変換処理にも注意が必要である。
また、計算が正常に収束したことは、入力データの正確性を保証するものではない。実際には通水できない管路が開放状態として設定されている場合など、計算結果だけでは発見しにくい誤りもあるため、施設情報との照合が重要となる。
5.2 解析結果の妥当性確認とモデルの校正
解析結果の確認では、各管路の流量や節点圧力が、施設の構成や運転条件から考えて合理的であるかを評価する。想定外の流量方向、極端な圧力、流量収支の不整合などが見られる場合には、入力条件やモデルの構成を再確認する。
解析モデルの妥当性を検証する方法の一つに、実測流量や実測圧力との比較がある。流量計や圧力計の測定結果を用い、計算値と実測値の差を確認する。
この際、需要量や配水池水位、ポンプの運転状態などを実測時の条件に合わせ、同じ時点の水理状態を比較することが重要である。
両者に大きな差がある場合は、需要量の配分、管路の接続関係、制水弁の状態、配水池水位、管路粗度、計器の測定精度などを総合的に調査する。
計算結果を実測値に近づけるために、管路粗度だけを安易に変更することは適切ではない。差が生じる原因を確認したうえで、合理的な範囲でモデルを校正する必要がある。
また、管路の新設・更新、配水系統の変更、需要量の増減などが生じた場合には、解析モデルも更新する。実際の施設状況に合わせてモデルを維持することが、解析結果の信頼性を確保するうえで重要である。
6.水道・工業用水道における活用
管網解析は、配水管網の新設・更新計画や、施設の運転条件を検討する際に活用される。
管路の更新計画では、更新後の管径や配水系統を設定して解析し、必要な供給能力を確保できるか確認する。また、複数の整備案を比較することで、管径の適正化や配水系統の再編を検討できる。
配水圧力の適正化では、配水池水位やポンプ運転条件、減圧弁の設定圧力などを変更して解析する。これにより、圧力不足や過大な水圧が生じる範囲を把握し、適切な運転条件や施設配置の検討に役立てる。
管路事故や工事に伴う断水時には、制水弁の閉鎖範囲と代替供給経路を設定し、残る配水系統の供給能力を確認する。あらかじめ複数の条件を比較しておくことで、事故時の対応や工事計画に活用できる。
工業用水道では、特定の大口需要者の使用水量が変動することによって、配水系統全体の流量や圧力が大きく変化する場合がある。そのため、需要者ごとの使用水量や時間帯別の変動、流量調整設備などを考慮した解析が重要となる。
特に自然流下方式では、配水池の水位と需要者の標高差、管路損失によって供給圧力が決まる。大口需要者の流量変動や配水池水位の低下によって、ほかの需要者への供給圧力にどの程度影響するかを検討できる。
近年は、浄水場や配水施設の流量・圧力などの監視データに加え、スマートメーターの普及によって需要者ごとの使用水量を把握する環境が整いつつある。これらのデータを管網解析と組み合わせることで、実際の運転状況に応じた流量・圧力分布の推定や、解析結果と実測値の比較による異常の早期発見が期待できる。
ただし、スマートメーターで取得する積算水量を解析条件に利用する場合には、計測時間に対応した流量への換算や、ほかの計測データとの時刻の整合を図る必要がある。
今後は、計測データの取得頻度や精度の向上に伴い、リアルタイムに近い管網解析による運転監視や、AIを活用した需要予測・異常検知への発展も考えられる。ただし、計測データの取得間隔や欠測、モデルの精度などによって推定結果の信頼性が左右されるため、継続的な検証が必要である。
管網解析は、計算結果を得ること自体が目的ではない。入力条件の正確性を確保し、実際の施設状況と照合しながら結果を評価することで、設計・運転・維持管理の判断に活用することが重要である。

