残留塩素

読み仮名
ざんりゅうえんそ
英語表記
Residual chlorine
目次

概要

残留塩素とは、塩素消毒を行った後、水中に残っている消毒能力を持つ塩素成分である。上水道では、浄水場で消毒した水が配水池や配水管を通って給水栓に届くまで、衛生状態を維持するために重要な役割を果たす。

残留塩素の濃度は、塩素の注入量だけでなく、水質、水温、滞留時間、管路の状態などによって変化する。このため、浄水場で適切に塩素を注入するだけでなく、配水過程での濃度変化を把握し、給水栓で必要な残留塩素を確保することが重要である。

1.残留塩素の基本

1.1 塩素消毒と残留塩素

塩素消毒は、水中の病原微生物を不活化し、水道水の衛生状態を確保するために行う処理である。一般に、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素剤を注入し、必要な消毒効果を得る。

注入した塩素の一部は、水中の有機物やアンモニアなどと反応して消費される。このため、塩素注入量と残留塩素濃度は同じではなく、残留塩素濃度は塩素が水中の物質と反応した後に残った成分の濃度を示す。

水道水では、浄水場で病原微生物を不活化するだけでなく、配水過程での衛生状態を維持することも重要である。そのため、給水栓まで一定の残留塩素を保持するように塩素消毒を行う。

なお、アンモニアを含む水では、塩素注入量の増加に伴い、結合残留塩素の生成・分解を経て遊離残留塩素が増加することがある。この現象を利用して遊離残留塩素を確保する方法を、ブレークポイント処理(不連続点塩素処理)という。

1.2 遊離残留塩素と結合残留塩素

残留塩素は、主に遊離残留塩素と結合残留塩素に区分される。両者は水中での存在形態や消毒特性が異なり、一般にその合計を全残留塩素として扱う。

区分主な特徴
遊離残留塩素主に次亜塩素酸(HOCl)と次亜塩素酸イオン(OCl⁻)として存在する。一般に消毒作用が速く、水道水の塩素消毒で重要な役割を持つ。
結合残留塩素塩素がアンモニアなどと反応して生成するクロラミン類などである。遊離残留塩素より消毒作用は緩やかだが、消毒能力を持つ。
全残留塩素遊離残留塩素と結合残留塩素の合計として扱う。

遊離残留塩素と結合残留塩素では、必要な残留濃度や消毒特性が異なる。このため、残留塩素を測定・管理する際には、どの種類の残留塩素を対象としているかを明確にする必要がある。

1.3 pHと消毒効果の関係

遊離残留塩素は、水中で主に次亜塩素酸(HOCl)と次亜塩素酸イオン(OCl⁻)として存在する。両者の割合はpHによって変化し、pHが低いほどHOClの割合が高く、pHが高いほどOCl⁻の割合が高くなる。

一般に、HOClはOCl⁻より強い消毒作用を示すため、同じ遊離残留塩素濃度でもpHによって消毒効果が異なる。また、水温や接触時間、水中の物質なども消毒効果に影響するため、残留塩素濃度だけで消毒状態のすべてを判断できるわけではない。

遊離残留塩素を構成する次亜塩素酸と次亜塩素酸イオン、結合残留塩素を構成するクロラミン類、およびpHによる遊離残留塩素の存在割合の変化を示す図

2.残留塩素の基準と管理目標

2.1 水道法令による残留塩素の規定

水道法施行規則第17条では、水道事業者が講じる衛生上必要な措置として、給水栓における残留塩素の保持条件が定められている。通常時は遊離残留塩素0.1mg/L以上、結合残留塩素の場合は0.4mg/L以上を保持するよう塩素消毒を行う必要がある。

また、供給する水が病原生物に著しく汚染されるおそれがある場合などには、通常時より高い残留塩素濃度が求められる。

区分給水栓で保持すべき濃度
通常時・遊離残留塩素0.1mg/L以上
通常時・結合残留塩素0.4mg/L以上
汚染のおそれが著しく高い場合など・遊離残留塩素0.2mg/L以上
汚染のおそれが著しく高い場合など・結合残留塩素1.5mg/L以上

これらは給水栓における残留塩素の保持条件であり、浄水場出口の濃度を直接定めたものではない。浄水場や配水施設では、給水栓までの塩素消費を考慮した運転管理が必要となる。

2.2 残留塩素の毎日検査

水道法施行規則第15条では、色、濁り及び消毒の残留効果について、1日1回以上検査を行うことが定められている。消毒の残留効果は、残留塩素の測定によって確認する。

検査地点は、給水区域や配水系統の状況を考慮して設定する。浄水場出口や配水池出口の監視に加え、給水栓で必要な残留塩素が保持されていることを確認する必要がある。

2.3 水質管理目標と運転管理上の目標

残留塩素は、水質管理目標設定項目の一つであり、目標値は1mg/L以下とされている。これは給水栓で保持すべき最低濃度とは異なり、水道水の水質をより適切に管理するための目標である。

実際の運転では、水道事業者が浄水場出口や配水池出口などの管理目標値を設定する。管理目標値は、配水距離、滞留時間、水温、管路の状態、末端で必要な残留塩素濃度などを考慮して定めるものであり、全国一律の値ではない。

3.残留塩素の測定

3.1 DPD法による測定

DPD法は、残留塩素と試薬の反応によって生じる赤紫色の呈色を利用して濃度を測定する方法である。一般に、残留塩素濃度が高いほど呈色が強くなり、標準色との比較や吸光度の測定によって濃度を求める。

遊離残留塩素の測定では、所定の試薬を加え、遊離残留塩素による呈色を測定する。一方、結合残留塩素は、ヨウ化カリウムなどを用いる所定の操作によって全残留塩素を測定し、遊離残留塩素との差から求める方法がある。

測定に用いる試薬や操作は、対象とする残留塩素の種類や測定方法によって異なる。このため、遊離残留塩素と全残留塩素の測定手順を混同しないことが重要である。

浄水場から配水池、配水管を経て給水栓に至る供給経路と、再塩素注入を行わない場合に水中や管壁との反応によって残留塩素濃度が低下する傾向を示す模式図

3.2 残留塩素計の種類

残留塩素の測定には、試薬による呈色を利用する方法のほか、電気化学的な反応を利用する方法がある。測定目的に応じて、携帯型の測定器や連続測定が可能なオンライン残留塩素計などを使用する。

携帯型の測定器は、浄水場や配水施設、給水栓などでの測定に利用される。一方、オンライン残留塩素計は、浄水場出口や配水池出口などに設置し、濃度の変化を継続的に監視するために使用する。

法令に基づく検査では、定められた測定方法とその適用条件に従う必要がある。携帯型測定器やオンライン計器であっても、機器の種類だけで公定法への適合性が決まるわけではない。

3.3 測定上の注意点

残留塩素は採水後にも反応や分解によって変化するため、試料を採取した後は速やかに測定する必要がある。また、測定結果は試料のpHや温度、共存物質、試薬の状態などの影響を受ける場合がある。

測定器は、使用方法に応じた点検や校正を行い、測定精度を維持することが重要である。特にオンライン残留塩素計では、測定部の汚れ、試薬や電極の状態、試料水の流量などが測定値に影響するため、定期的な確認が必要となる。

4.配水過程における残留塩素の変化

4.1 残留塩素濃度が低下する原因

浄水場で塩素を注入した水は、配水池や配水管を通る間にも残留塩素が消費される。主な原因には、水中の有機物などとの反応や、管内面に存在する物質との反応がある。

残留塩素の消費量は、水質や管材、管内面の状態、滞留時間などによって異なる。このため、浄水場からの距離だけで残留塩素濃度が決まるわけではない。

4.2 水温と滞留時間の影響

一般に、水温が高くなると塩素の反応速度が増加し、残留塩素が低下しやすくなる。また、配水池や配水管での滞留時間が長くなると、塩素が消費される時間も長くなるため、濃度が低下しやすい。

特に、夏季の水温上昇や水需要の減少による滞留時間の増加は、残留塩素管理上の注意点となる。ただし、実際の濃度低下は水質や配水条件によって異なるため、測定結果や運転記録に基づいて判断する必要がある。

4.3 配水池・管末での濃度変化

残留塩素は、浄水場出口から配水池、配水管、給水栓へと水が流れる過程で変化する。配水池では貯留時間や水の混合状態が影響し、配水管では管内の滞留時間や管壁との反応などが影響する。

配水系統の末端や使用水量の少ない区域では、滞留時間が長くなり、残留塩素が低下する場合がある。一方、配水池や配水管の途中で追加塩素注入を行う場合には、残留塩素濃度が上昇することもある。

このため、残留塩素の管理では、浄水場出口の濃度だけでなく、配水系統内の複数地点の測定値と水の流れを合わせて把握することが重要である。

DPD法による残留塩素の測定方法を示した図
緩衝剤入り粉体試薬を用いた比色測定の例

5.運転・維持管理

5.1 塩素注入量と残留塩素の監視

塩素注入設備では、処理水量や原水・浄水の水質などに応じて注入量を調整する。注入量の管理では、設定した注入率だけでなく、実際に得られる残留塩素濃度を確認することが重要である。

浄水場出口、配水池出口、配水系統の末端などの残留塩素濃度を把握することで、塩素消費の状況や運転状態の変化を確認できる。また、給水栓で必要な残留塩素を確保できるよう、季節変動や水需要の変化を考慮した管理を行う。

5.2 残留塩素濃度の異常と対応

残留塩素濃度が低下した場合には、塩素注入設備の異常、水質の変化、配水池や管路での滞留時間の増加などが原因として考えられる。一方、濃度が高くなった場合には、塩素注入量の過大設定や水量・水質の変化などが関係することがある。

異常値が確認された場合は、携帯型測定器などによる再測定や測定機器の点検を行い、実際の水質異常と計器の異常を区別する。その上で、運転記録、注入設備、配水系統の状況などを確認し、原因に応じた対応を行う。

特に、給水栓で必要な残留塩素が確保できない場合には、水質の安全確保を優先し、関係部署と連携して必要な措置を講じることが重要である。

5.3 臭気と消毒副生成物への配慮

塩素消毒は水道水の衛生確保に不可欠であるが、残留塩素濃度が高い場合には塩素臭が問題となることがある。また、塩素が水中の有機物などと反応すると、トリハロメタン類などの消毒副生成物が生成される場合がある。

このため、残留塩素の管理では、必要な消毒効果と給水栓での残留塩素を確保することを基本としながら、臭気や消毒副生成物にも配慮する必要がある。単に残留塩素濃度を高く設定するのではなく、水質や配水条件に応じた適切な塩素注入管理が重要である。

6.工業用水道における残留塩素の取扱い

工業用水道では、水源、水質、浄水処理方式、需要者の用途などによって、塩素消毒の必要性や残留塩素の管理方法が異なる。飲用を目的とする上水道とは供給条件が異なるため、上水道の給水栓における残留塩素保持条件を一律に適用するものではない。

塩素消毒を行う工業用水道では、残留塩素の基本的な化学的性質や濃度変化の考え方は上水道と共通する。一方、需要者の製造工程によっては残留塩素が支障となる場合もあるため、供給水質や用途に応じた管理が必要となる。

なお、工業用水道の水質項目に用いられる「塩素イオン」は、主に水中の塩化物イオン(Cl⁻)を表すものであり、消毒効果を示す残留塩素とは異なる項目である。両者を混同しないことが重要である。

関連用語

参考資料

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この記事を書いた人

ふるさん
みずみちノートの執筆者・案内役

水道施設に古くから関わっている「古株」のフクロウ。上水道・工業用水道の技術を、基礎から現場での実務までわかりやすく案内します。

技術監修: 技術士(上下水道部門)

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