今回の疑問:送水先までの距離が長いときや送水量が不足したとき、より大きなポンプに交換すれば解決するのでしょうか。
学習目標:流量・全揚程・動力を区別し、実揚程、損失水頭、ポンプ性能曲線と管路特性曲線から運転点を読み取れること。ポンプ交換前に確認すべき条件を整理できること。
まずは基本から
この技術は何のためにある?
ポンプは水にエネルギーを与え、自然流下だけでは必要な流量・圧力を確保できない場所へ水を送る設備です。浄水場から配水池への送水や、配水施設・工業用水道の送水などで使われます。
「遠いから強いポンプが必要」とは限りません。送水に必要な能力は、距離だけでなく、送る水の量、水面の高低差、管路の抵抗、送水先で必要な圧力などで変わります。
まず確認するのは、どれだけの水を、どの条件で送るかです。
「強いポンプ」を三つの量に分ける
- 流量Q(m³/h、m³/s):単位時間に送る水の体積
- 全揚程H(m):ポンプが水に与える単位重量当たりのエネルギーを、水頭として表したもの
- 動力P(kW):単位時間に水に与えるエネルギーや、ポンプ軸に必要な仕事率。効率を考慮して区別します
流量が大きいことと揚程が高いことは同じではありません。電動機の出力だけから必要な流量を判断することもできません。必要流量と、その流量で必要な全揚程を組にして考えます。
仕組みを理解する
どのような原理で働くのか?
まず、吸込水槽と送水先水槽がともに大気開放され、水槽の自由水面における流速を無視できる場合を考えます。ポンプが補うべき全揚程は、二つの自由水面の標高差と、送水時に失われる水頭の合計です。
必要全揚程 H = 実揚程 + 損失水頭
H = (z2 − z1) + hL
- H:必要全揚程(m)
- z1:吸込水槽の自由水面の標高(m)
- z2:送水先水槽の自由水面の標高(m)
- hL:吸込管・送水管、弁・曲管、水槽への流入出などを含む損失水頭の合計(m)
実揚程は両水槽の自由水面間の標高差です。ベルマウスの開口高さ、送水管中心、ポンプの設置高さではありません。損失水頭は摩擦や弁・曲管などによるエネルギー損失を水頭で表したもので、地形の高さの差ではありません。
同じ流量・管径・管内面などの条件なら、管路が長くなるほど一般に摩擦損失は増えます。しかし、管径を大きくすれば流速が下がって損失が小さくなる場合もあります。距離だけでポンプ能力は決められません。
送水先で一定の圧力が必要な場合
配水管末端や工業用水道の受水地点のように、送水先に必要な残圧がある場合は、自由水面間の標高差と損失水頭だけでは評価できません。定常流の二断面間では、位置水頭・圧力水頭・速度水頭の差に損失水頭を加えて必要揚程を求めます。
H = (z2 − z1) + (p2 − p1)/(ρg) + (v22 − v12)/(2g) + hL
p:圧力(Pa)、ρ:密度(kg/m³)、g:重力加速度(m/s²)、v:流速(m/s)。必要に応じて流速分布に関する補正も考慮します。両端が大気開放水槽の自由水面なら圧力水頭差はゼロで、水面流速を無視すれば前の簡単な式になります。
水の密度を1,000kg/m³とすれば、0.10MPaは約10.2mの圧力水頭に相当します。ただし、同じ水頭を実揚程と必要圧力の両方に重複して加えないことが重要です。
図で見てみよう
図1|二つの水槽を結ぶ送水系統と全揚程

図の見方
ポンプからの送水管は送水先水槽の壁面下部から入り、水槽内で立ち上がり、上向きベルマウスから水面下へ吐出しています。実揚程20mの上側基準はベルマウス先端ではなく、送水先水槽の自由水面です。
技術的なポイント
損失水頭12mを示す上側の破線は実際の水面ではなく、ポンプが補うエネルギーを水頭で表すための概念的な位置です。大気開放された両水槽の自由水面はゲージ圧0ですが、ポンプの吸込管・吐出管内の圧力が0という意味ではありません。
図2|二つの特性曲線の交点が運転点

図の見方
一般的な遠心ポンプでは、一定回転速度のもとで流量が増えると発生揚程が低下する傾向があります。一方、管路側は流量が増えるほど損失水頭が増え、必要揚程が上昇します。両者が交差する点が運転点です。
技術的なポイント
弁を絞ると弁の局部損失が増え、弁を含む系統全体の特性曲線が変化します。図2では同じポンプ性能曲線上で運転点がAからBへ移り、流量は減り、揚程は上がります。ここでいう「管路特性曲線」は弁なども含む系統の特性を意味します。
実際に計算・確認してみよう
具体例から考えてみよう
吸込水槽から送水先水槽へ100m³/hを送る計画を考えます。図1・図2の値は説明用の仮定であり、実際の設計基準値や実機性能ではありません。
条件を整理する
- 必要流量 Q=100m³/h
- 両水槽の自由水面の標高差(実揚程)=20m
- Q=100m³/hにおける損失水頭=12m(吸込側・送水側の損失と水槽への流入出などを含む仮定値)
- 両水槽は大気開放、水槽水面の流速は無視し、送水先水槽へ水没吐出
計算・確認の手順
流量を秒単位へ換算します。Q=100÷3,600=約0.0278m³/s
必要全揚程は、H=20+12=32m です。これは100m³/hを送るときのポンプ全揚程の必要値であり、吐出圧力計の示す圧力水頭が必ず32mという意味ではありません。
参考として水の密度1,000kg/m³、重力加速度9.81m/s²のとき、水動力 Pw=ρgQH=1,000×9.81×(100÷3,600)×32=約8,720W=約8.72kW となります。
仮にポンプ効率を70%とすると、軸動力=8.72÷0.70=約12.5kW です。電動機の入力は電動機効率にも左右され、この値だけで電動機容量を決めてはいけません。
図2の仮想特性式を確認します。(Q:m³/h、H:m)
通常の系統:Hsys=20+12(Q/100)2
仮想ポンプ:Hp=44−12(Q/100)2
両式を等置すると、44−12(Q/100)2=20+12(Q/100)2 から、Q=100m³/h、H=32m(運転点A)です。
弁を絞り、系統特性が Hsys=20+20(Q/100)2 に変わったと仮定すると、44−12(Q/100)2=20+20(Q/100)2 です。これより Q=約86.6m³/h、H=35m(運転点B) と求まります。
結果から何がわかる?
弁を絞った後の方が全揚程は高くなっていますが、流量は100m³/hから約86.6m³/hへ減少しています。揚程が高ければ送れる水量も増える、とは限りません。また、より高揚程のポンプに交換した場合の流量も、交換後のポンプ性能曲線と管路特性曲線の交点から判断します。
これらの曲線は教育用の簡略モデルです。現実の性能曲線、損失特性、効率、運転許容範囲は実機と施設の条件によって異なります。
実務で気をつけたいこと
設計・施工・運転管理での注意点
- 必要流量:通常・最大・最小の送水量と時間変動、将来需要を整理する
- 水位・圧力:両水槽の水位変動、標高、末端で必要な圧力を確認する
- 管路:延長、内径、粗さ、弁・曲管、弁開度、閉塞・漏水の可能性を調べる
- ポンプ:メーカーQ-H曲線、効率、回転数、許容運転範囲、台数制御を確認する
- 安全性:利用可能NPSHと必要NPSH、キャビテーション、管路の最大・最小圧力、水撃作用、故障時の挙動を検討する
- 実測との照合:実測流量、吸込・吐出圧力、測定位置、水位、電流、弁開度、運転履歴を比較する
NPSHはポンプ吸込側のキャビテーションに関する余裕を水頭で表す指標です。水撃作用はポンプの急停止や弁操作などによって流速が急変し、管内圧力が大きく変動する現象です。
よくある誤解・見落とし
「揚程32mなら32m上までしか水は届かない」という理解は正しくありません。揚程は水に与えるエネルギーの水頭換算であり、標高差だけを示す値ではありません。
また、ポンプの吐出圧力計の値だけでは全揚程は判断できません。吸込側圧力、測定断面の高さや流速が関係します。過大なポンプを選ぶと、過大圧力や低効率運転、弁による余計なエネルギー損失につながることもあります。
判断に迷ったら
まず現場の水位、流量、圧力計位置、弁開度、運転記録を確認し、図面上の管路条件と照合します。必要に応じて設計指針、ポンプメーカーの性能資料、設備の維持管理記録を確認し、ポンプ交換だけでなく管路抵抗や制御方法の改善も比較します。
理解度チェック
確認問題
問1.同じ流量を、同じ管内面条件のもとで送るとき、管径を大きくした場合の摩擦損失は一般にどうなるでしょうか。
1.大きくなる
2.小さくなる
3.管径では変わらない
答えと解説を見る
正解:2.小さくなる
一般に管径が大きいほど流速が下がり、摩擦損失は小さくなります。実際には粗さや流動条件の違いも考慮します。
問2.図2で弁を絞ると、ポンプ揚程が32mから35mに上がったのに流量が減ったのはなぜでしょうか。
1.管路抵抗が増え、運転点が移ったため
2.実揚程が20mから35mに変わったため
3.電動機の出力が自動的に増えたため
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正解:1.管路抵抗が増え、運転点が移ったため
弁による局部損失が増えると系統特性曲線が変化し、ポンプ性能曲線との交点がAからBへ移ります。実揚程は20mのままです。
問3.送水量不足でポンプ交換を検討するとき、最初に行うべきことはどれでしょうか。
1.電動機出力だけを増やす
2.吐出弁を必ず全開にする
3.必要流量・水位・圧力・管路抵抗と実測運転状態を確認する
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正解:3.条件と実測運転状態を確認する
原因はポンプだけとは限りません。水位条件、弁開度、管路閉塞、実測流量と圧力などを比較して原因を絞り込みます。
まとめ
今回の要点
- 必要流量と全揚程は別の量であり、ポンプの能力は流量と揚程の組合せで判断する
- 大気開放水槽間では、必要全揚程は自由水面間の実揚程と損失水頭の合計になる
- 今回の仮定条件では20+12=32m
- 実際の運転点はポンプ性能曲線と管路特性曲線の交点で決まる
- ポンプ交換の前に水位・管路・弁・実測値を確認する
「強いポンプが必要か」の前に、「送水を難しくしている条件は何か」を確かめましょう。
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参考資料
- Hydraulic Institute, Pump System Curves(Pump Fundamentals)
- United States Department of Agriculture, Natural Resources Conservation Service, National Engineering Handbook, Chapter 8: Irrigation Pumping Plants(2016年改訂)

