- 読み仮名
- すいどうじぎょうのけいえいしひょう
- 英語表記
- Water Utility Management Indicators
概要
水道事業の経営指標とは、水道事業の財務状況、施設の利用状況、老朽化や更新の進捗などを定量的に把握するための指標である。事業の現状や課題を分析し、将来の施設整備や経営改善を検討するために用いられる。
代表的な指標には、経常収支比率、料金回収率、有収率、施設利用率、管路経年化率、管路更新率などがある。これらは評価する対象が異なるため、単独の数値ではなく、複数の指標を組み合わせて判断することが重要である。
水道事業では、人口減少に伴う水需要の減少や、老朽化した施設の更新などが経営上の課題となる。経営指標は、財務担当者だけでなく、施設の設計、運転、維持管理を担当する技術職員にとっても、事業の実態を把握するための重要な情報である。
本記事では、主に上水道事業の経営指標を取り上げる。工業用水道事業や水道用水供給事業では、料金制度や事業構造、指標の算定条件などが異なる場合があるため、区別して考える必要がある。
1.経営指標の種類
水道事業の経営指標は、財務状況だけでなく、水の供給効率、施設能力の利用状況、老朽化や更新の進捗など、さまざまな側面を評価するために用いられる。
本記事では、代表的な指標を次の4つに分類する。
| 分類 | 主な経営指標 |
|---|---|
| 経営の健全性 | 経常収支比率、料金回収率、企業債残高対給水収益比率 |
| 水の供給効率 | 有収率 |
| 施設の利用状況 | 施設利用率、最大稼働率 |
| 施設の老朽化と更新 | 有形固定資産減価償却率、管路経年化率、管路更新率 |
この分類は、技術職員が各指標の役割を理解しやすいように整理したものであり、公的な経営比較分析表の分類と完全に一致するものではない。
例えば、有収率が低下した場合には、漏水や水量計測などの状況を確認する必要がある。一方、管路経年化率が上昇した場合には、管路の布設年度や状態を把握し、更新計画との関係を確認することが重要となる。
2.経営の健全性を示す指標
2.1 経常収支比率
経常収支比率とは、経常費用に対する経常収益の割合を示す指標である。水道料金による収益や営業外収益などによって、維持管理費、減価償却費、支払利息などの経常費用をどの程度賄えているかを表す。
経常収支比率(%)=経常収益÷経常費用×100
経常収益は営業収益と営業外収益の合計、経常費用は営業費用と営業外費用の合計である。
経常収支比率が100%以上であれば、当該年度の経常収益が経常費用以上であることを示す。100%未満の場合は、経常収益だけでは経常費用を賄えていない状態である。
ただし、100%以上であっても、将来の施設更新に必要な資金が十分に確保されているとは限らない。また、長期前受金戻入などの現金収入を伴わない収益も含まれるため、経常収支比率だけで資金繰りの健全性を判断することはできない。
2.2 料金回収率
料金回収率とは、給水に要する費用を、水道料金による収益でどの程度回収できているかを表す指標である。供給単価と給水原価の関係によって算定する。
料金回収率(%)=供給単価÷給水原価×100
供給単価は有収水量1m³当たりの給水収益、給水原価は有収水量1m³当たりの給水に要する費用である。
供給単価(円/m³)=給水収益÷年間総有収水量
経営比較分析表における給水原価は、経常費用から給水原価の算定対象としない費用や長期前受金戻入を控除して求める。
給水原価(円/m³)={経常費用-(受託工事費+材料及び不用品売却原価+附帯事業費)-長期前受金戻入}÷年間総有収水量
これらの調整項目は、地方公営企業会計の決算数値を用いて計算する。給水原価は、単純に経常費用を有収水量で割った値ではないことに注意が必要である。
料金回収率が100%以上であれば、算定対象となる給水費用を給水収益で賄えていることを示す。100%未満の場合は、給水収益だけでは算定対象となる費用を回収できていない状態である。
ただし、料金回収率が低い場合でも、直ちに料金改定が必要と判断するものではない。費用構造、他会計からの繰入金、料金体系、将来の更新需要などを総合的に検討する必要がある。
2.3 企業債残高対給水収益比率
企業債残高対給水収益比率とは、年間の給水収益に対する企業債残高の割合を示す指標である。企業債による資金調達の規模を、料金収入の規模との関係から把握するために用いられる。
企業債残高対給水収益比率(%)=企業債現在高合計÷給水収益×100
企業債は、施設整備などの資金を長期的に調達するために発行される地方債である。管路や浄水場などの施設は長期間使用されるため、企業債によって整備費用の負担を複数年度に分散することには合理性がある。
この比率が高い場合は、給水収益に対して企業債残高が大きいことを意味する。ただし、施設整備の時期や投資規模、償還計画などによって数値が異なるため、高いことだけで経営状態が悪いとは判断できない。
反対に、比率が低くても、必要な施設更新が先送りされている可能性がある。企業債残高は、施設の整備状況、将来の更新需要、償還負担などと合わせて評価することが重要である。
2.4 経常収支比率と料金回収率の違い
経常収支比率と料金回収率は、どちらも経営の健全性を評価する指標であるが、比較する収益と費用の範囲が異なる。
経常収支比率は、給水収益以外の営業収益や営業外収益も含めた経常収支を評価する。一方、料金回収率は、給水収益によって給水に要する費用をどの程度回収できているかを評価する。
このため、経常収支比率が100%以上でも、料金回収率が100%以上になるとは限らない。料金以外の収益によって経常収支が均衡していても、給水収益だけでは給水費用を回収できていない場合がある。
両指標を比較することで、事業全体の経常的な収支と、水道料金による費用回収の状況を区別して把握できる。将来の更新投資や財源確保を検討する際にも、この違いを理解しておく必要がある。
3.水の供給効率と施設利用状況を示す指標
3.1 有収率
有収率とは、年間総配水量に対する年間総有収水量の割合を示す指標である。配水した水量のうち、どの程度が料金収入などの対象となっているかを表す。
有収率(%)=年間総有収水量÷年間総配水量×100
有収率は、水道事業の供給効率を評価するための代表的な指標である。ただし、有収率が100%に満たない部分が、すべて漏水による損失を意味するわけではない。
詳細な水量区分、無収水量との関係、漏水対策については、独立記事「有収率」で解説する。
3.2 施設利用率
施設利用率とは、一日配水能力に対する一日平均配水量の割合を示す指標である。保有する施設能力が、日常的にどの程度利用されているかを把握するために用いられる。
施設利用率(%)=一日平均配水量÷一日配水能力×100
一日配水能力は、施設が1日に配水できる能力を表し、一日平均配水量は年間の配水実績から求める平均値である。両者の単位は、通常m³/日で表される。
施設利用率が低い場合は、保有する施設能力に対して平均的な配水量が少ないことを意味する。ただし、需要の季節変動や非常時の余裕能力、施設の停止を伴う点検・補修などを考慮する必要があり、施設利用率だけで施設が過大であると判断することはできない。
3.3 最大稼働率
最大稼働率とは、一日配水能力に対する一日最大配水量の割合を示す指標である。水需要が最も大きい日に、施設能力がどの程度利用されたかを把握するために用いられる。
最大稼働率(%)=一日最大配水量÷一日配水能力×100
施設利用率が平均的な利用状況を示すのに対し、最大稼働率は最大需要時の利用状況を示す。一般に、一日最大配水量は一日平均配水量以上となるため、同じ施設能力を用いて算定した最大稼働率は施設利用率以上となる。
最大稼働率が高い場合は、最大需要時に施設能力の余裕が小さくなる可能性がある。一方、最大稼働率が低い場合でも、施設の系統構成や配水区域ごとの需要、非常時のバックアップ能力などを確認する必要がある。
施設能力の適正化を検討する際には、施設利用率と最大稼働率を組み合わせ、将来の水需要や必要な予備能力を踏まえて判断することが重要である。
4.施設の老朽化と更新を示す指標
4.1 有形固定資産減価償却率
有形固定資産減価償却率とは、有形固定資産のうち償却対象資産について、減価償却がどの程度進行しているかを示す指標である。施設全体の会計上の経年状況を把握するために用いられる。
有形固定資産減価償却率(%)=有形固定資産減価償却累計額÷償却対象有形固定資産の帳簿原価×100
減価償却は、施設や設備の取得費用を、定められた耐用年数にわたって各年度の費用に配分する会計処理である。そのため、減価償却が進行していることと、施設が物理的に劣化していることは必ずしも一致しない。
有形固定資産減価償却率が高い場合は、償却対象資産全体について、取得価額に対する減価償却累計額の割合が大きいことを示す。ただし、施設の使用環境や維持管理状況によって実際の劣化程度は異なるため、設備点検や施設診断の結果と組み合わせて評価する必要がある。
4.2 管路経年化率
管路経年化率とは、管路総延長に対して、法定耐用年数を経過した管路延長が占める割合を示す指標である。管路の経年的な状況を把握し、将来の更新需要を検討するために用いられる。
管路経年化率(%)=法定耐用年数を経過した管路延長÷管路総延長×100
ここでいう管路総延長は、導水管、送水管、配水管の延長の合計である。一般的な水道管路の法定耐用年数は40年であるが、これは会計上の償却に用いられる年数であり、すべての管路の物理的な使用限界を示すものではない。
法定耐用年数を超過した管路であっても、管種や施工条件、維持管理状況などによっては継続して使用できる。一方、法定耐用年数に達していない管路でも、腐食や地盤変状などによって更新が必要となる場合がある。
したがって、管路経年化率は更新需要を把握するための指標の一つであり、個々の管路の健全性を直接判定するものではない。
4.3 管路更新率
管路更新率とは、管路総延長に対して、当該年度に更新した管路延長が占める割合を示す指標である。管路更新の進捗や更新ペースを把握するために用いられる。
管路更新率(%)=当該年度の更新管路延長÷管路総延長×100
例えば、管路総延長が500kmの水道事業において、年間2.5kmの管路を更新した場合、管路更新率は0.5%となる。
ただし、管路更新率は年度ごとの事業量によって変動するため、単年度の数値だけでは長期的な更新状況を評価しにくい。複数年度の推移や更新計画に対する進捗を確認することが重要である。
また、管路更新率が一定であると仮定して計算した年数は、実際の更新完了時期を示すものではない。今後の更新対象管路の増加、工事費、施工条件、財源確保などによって更新ペースが変化するためである。
4.4 管路経年化率と管路更新率の違い
管路経年化率は、法定耐用年数を超えた管路がどの程度存在するかを示す指標である。一方、管路更新率は、当該年度にどの程度の管路を更新したかを示す指標である。
管路は過去の整備時期に応じて順次法定耐用年数を迎える。更新工事を継続していても、新たに法定耐用年数を超える管路延長が、更新した経年管路延長を上回れば、経年管路の総延長は増加する。

管路総延長が一定であり、更新によって経年管路が除却される場合、新たに法定耐用年数を超える管路と同じか、それ以上の延長の経年管路を更新すれば、経年管路の総延長は増加しない。
ただし、実際には、供用開始した新設管路や廃止管路による総延長の変動、法定耐用年数に達していない管路の更新などもあるため、管路更新率だけで経年管路の増減を判断することはできない。
また、法定耐用年数を超えた管路が、直ちに使用不能になるわけではない。管路の更新では、経過年数だけでなく、管種、漏水・破損履歴、地盤条件、耐震性、事故時の影響などを踏まえて優先順位を決定する必要がある。
5.経営指標の評価方法
5.1 経年比較
経営指標を評価する際には、単年度の数値だけでなく、複数年度の推移を確認することが重要である。数値が継続して改善しているのか、一時的に変動しているのかを区別する必要がある。
例えば、料金回収率が低下した場合でも、その原因が給水収益の減少なのか、動力費や修繕費などの増加なのかによって、必要な対応は異なる。
また、大規模な施設整備や資産の除却、会計処理の変更などによって、指標が一時的に変動する場合がある。年度間の比較では、こうした特殊要因を確認することが重要である。
5.2 類似団体との比較
経営指標は、給水人口や事業規模などが類似する水道事業との比較にも利用される。類似団体の平均値と比較することで、自らの事業の特徴や課題を把握しやすくなる。
ただし、給水人口が近い事業体でも、給水区域の広さ、地形、水源条件、施設配置などによって経営条件は異なる。
例えば、起伏の大きい地域ではポンプ設備に要する動力費が増加しやすく、給水区域が広い地域では管路延長や維持管理費の負担が大きくなる場合がある。指標の比較では、こうした事業条件の違いを考慮する必要がある。
5.3 複数指標の組み合わせ
経営指標は、相互の関係を確認することで、単独の数値だけでは把握しにくい課題を明らかにできる。
例えば、経常収支比率が100%以上でも料金回収率が100%未満であれば、給水収益以外の収益への依存状況を確認する必要がある。
また、管路経年化率が上昇する一方で管路更新率が低い状態が続く場合には、更新需要と事業量の関係を検討する必要がある。ただし、管路の状態や更新計画を確認せずに、更新不足と断定することは適切ではない。
5.4 指標だけでは把握できない事項
経営指標は、事業の状態を定量的に把握するために有効であるが、施設の健全性や供給の安全性をすべて表すものではない。
例えば、管路経年化率からは、管路の腐食状況、継手の耐震性能、漏水発生箇所などを直接把握することはできない。
施設の状態を適切に評価するには、経営指標に加え、設備点検、管路診断、事故履歴、維持管理記録などの情報を活用する必要がある。
6.経営指標と施設整備・維持管理
6.1 施設更新の優先順位
水道施設の更新計画では、限られた財源の中で、どの施設を優先して更新するかを判断する必要がある。管路経年化率や有形固定資産減価償却率は、施設全体の経年的な状況を把握するための基礎情報となる。
ただし、これらの指標だけで個々の施設の更新順位を決定することはできない。劣化状況、事故発生の可能性、断水時の影響、代替施設の有無、耐震性能などを総合的に評価する必要がある。
6.2 更新投資と財源確保
老朽化した施設の更新には、多額の事業費と長期的な財源確保が必要となる。更新投資の計画では、施設の状態だけでなく、水道事業の収益構造や企業債の償還負担も考慮する必要がある。
経常収支比率や料金回収率は、経常的な収支や料金収入による費用回収の状況を把握するために役立つ。また、企業債残高対給水収益比率は、給水収益に対する企業債残高の規模を確認する指標となる。
水道普及期には、道路整備や市街地開発に合わせて、水道管を含む各種インフラを一体的に整備できた地域がある。一方、現在の管路更新では、既設道路の交通確保、地下埋設物との調整、給水の継続、既設管からの切替などが必要となり、当初の建設時と同じペースで施工できるとは限らない。
シールド工法や推進工法などの非開削工法を採用することで、道路を連続して開削せずに長い区間を施工できる場合もある。ただし、立坑や施工設備に要する費用、管径、施工延長、地盤条件などによって経済性が異なり、すべての管路更新に適しているわけではない。
さらに、人口減少に伴う給水収益の減少、工事費の上昇、技術職員や施工業者の確保なども、更新事業量を制約する要因となる。
このため、過去の建設延長と同じ延長を毎年更新することだけを目標とするのではなく、施設の健全性、重要度、施工条件、経済性などを踏まえて更新計画を策定する必要がある。
更新投資に使用できる資金額は、経営指標だけでは判断できない。資金収支、現金預金残高、企業債の償還予定、将来の事業費などを確認し、長期的な財政見通しと整合させることが重要である。
6.3 施設能力の適正化
水需要が減少する地域では、将来の需要に応じた施設能力の適正化が重要となる。施設利用率や最大稼働率は、保有する施設能力と配水量の関係を把握するために役立つ。
ただし、平均的な配水量が減少しても、最大需要時や事故・災害時に必要となる施設能力まで減少するとは限らない。
施設の統廃合や能力縮小を検討する際には、将来の水需要、施設の予備能力、配水区域の条件、非常時の供給体制などを総合的に評価する必要がある。
6.4 漏水対策と維持管理費
有収率の低下は、漏水や水量計測などの問題を把握するための手掛かりとなる。漏水が増加すると、浄水処理や送配水に要する費用が増加する場合があり、事業の効率性にも影響する。
漏水対策では、有収率の推移に加え、漏水調査結果、修繕履歴、管路の布設年度などを確認する必要がある。また、漏水による損失と対策費用を比較し、効果的な対策を検討することが重要である。
施設の維持管理では、修繕費や動力費、薬品費などの費用を継続的に把握する必要がある。これらの費用と施設の状態を関連付けることで、設備の修繕継続と更新のどちらが適切かを検討する材料となる。
6.5 アセットマネジメントとの関係
水道事業のアセットマネジメントは、施設の状態や将来の更新需要を把握し、必要な事業費と財源を長期的な視点から検討する取組である。
経営指標は、この取組において、財務状況、施設利用状況、老朽化や更新の進捗を把握するための基礎情報となる。ただし、経営指標そのものが更新計画や財政計画を代替するものではない。
技術職員には、経営指標を施設の実態と結び付け、維持管理や更新投資の判断に活用する視点が求められる。
経営指標は判断のための材料であり、数値そのものが結論ではない。複数の指標と、事業条件や施設の実態を組み合わせて評価することが重要である。
関連用語
参考資料
- 総務省「経営比較分析表(水道事業)」および各経営指標の算定式
- 総務省「地方公営企業決算状況調査」
- 厚生労働省・国土交通省「水道事業におけるアセットマネジメント(資産管理)に関する手引き」
- 日本水道協会『水道施設設計指針 2024』

